【高度デザイン人材とは?】今、日本の産業界で求められている「デザイン力」

2018年5月、経済産業省と特許庁が「デザイン経営」宣言を公表し、マスコミでも話題となりました。中でも注目されているのが「高度デザイン人材」の育成と活用です。「ものづくり大国」と呼ばれてきた日本が、AIやIoTなど情報通信技術の躍進による第4次産業革命の荒波をどう乗り越えていくのか。そのために必要とされる人材やスキルとは? 今回、政府の提言をもとに考えて行こうと思います。

 

新たなビジネスモデルの基盤となる「デザイン」の力

第4次産業革命や新興国の労働力の高度化などにより、「ものづくり大国日本」の優位性が脅かされつつあります。また、巷にはさまざまな商品があふれ、ユーザーのニーズはどんどん多様化・深層化しています。

このような状況下で必要とされるのは、単に高度な技術を有するだけではなく、ユーザーの真のニーズを見極め、それを的確に商品やサービスなどの形にしていく「クリエイティブ力」です。

そこで、経済産業省と特許庁は2017年7月、デザイナーや経営コンサルタント、学者などを集めた「産業競争力とデザインを考える研究会」を立ち上げました。そして、計11回に及ぶ議論を重ね、その報告書として今回公表されたのが「デザイン経営」宣言です。

 

「デザイン経営」とは何か?

この報告書によれば、デザインとは「企業が大切にしている価値、それを実現しようとする意志を表現する営みである」と定義されています。
単に外見的なスマートさや美しさを追求するだけでなく、その製品を通じて、企業の価値や意志を一貫したメッセージとして顧客に伝えていくことで、ブランド価値を生み出す。それこそが「デザインの力」だというわけです。

さらに、「デザインは、人々が気づかないニーズを掘り起こし、事業にしていく営みでもある」と述べています。顧客や市場をよく観察し、潜在的なニーズを見つけ、その欲求を満たす新たな事業を作り出していく。つまり高度なデザインは、イノベーションを実現する力にもなるのです。

このようなデザインを活用した経営手法が「デザイン経営」です。
その効果について、報告書では以下のようにまとめています。

デザイン経営の効果=ブランド力向上+イノベーション力向上=企業競争力の向上

実際、欧米ではデザインへの投資を行っている企業が、より高いパフォーマンスを上げているという研究結果も報告されています。

 

「デザイン経営」において求められる人材とは

こうした状況の中で今、求められているのが「高度デザイン人材」
「産業競争力とデザインを考える研究会」の前身である「第4次産業革命クリエイティブ研究会」は、デザインを以下のように定義しています。


出典:経済産業省(第4次産業革命クリエイティブ研究会による「デザイン」の定義)

一般的に、日本で「デザイン」のイメージというと個々の製品のスタイルや意匠など、外見的なものを指すことが多いのですが、上記図のように、それはあくまで「狭義のデザイン」の枠に入ります。そのため、これだけをいくら追求しても、多様化した社会のニーズには対応できません。

ここで意味する「デザイン」はもっと広い視点での、製品やサービス全体の設計を考えていくという「広義のデザイン」にあたります。

さらに最近では、たとえば「Uber」のように既存の技術を組み合わせ、新たな価値を生み出すというビジネスモデルも注目されています。
このように製品やサービス提供、プロセス全体を設計することが「発展的なデザイン」で、この大枠までの能力を有する者が「高度デザイン人材」と呼ばれるのです。

 

幅広い視点とビジネス思考を備えたクリエイターを目指そう

こうしたことを踏まえ、「デザイン経営」宣言では今後の取り組みとして「企業・大学等において、事業課題を創造的に解決できる人材(高度デザイン人材)の育成を推進する」ことを掲げています。

具体的には、

1. 企業において「ビジネス系・テクノロジー系人材」がデザイン思考を、「デザイン系人材」がビジネス・テクノロジー思考を身につけるための研修などを実施する

2. 専門領域の異なる人材同士が創造的に課題を解決するプロジェクトやワークショップなどを導入する

3. ビジネス系・テクノロジー系大学においては、デザイン思考のカリキュラムや芸術系大学との連携プロジェクトなどを実施する

4. 芸術系大学においては、ビジネスおよびテクノロジーの基礎を身につけるカリキュラムやデザイナーとしての実践的能力を身につけるための産学連携プロジェクトなどを実施する

という提言が出されています。
つまり、これからの時代は「ビジネス思考」と「デザイン思考」の両面を兼ね備えた人材が求められているといえます。

 

まとめ

有形・無形、モノ・コト。あるいは、体験・経験。
「デザイン」の領域は、本当はとても広い範囲に渡ります。

「デザイナー」や「クリエイター」といえば、芸術的センスに長けた専門職、もっと抽象的に言えば「絵が描ける人」というイメージが、社会一般からあったのも事実です。
しかしながら、それは表に出ている狭義のデザインに限定した見方であり、実際はもっと広義のデザイン、あるいは発展的なデザイン思考でクリエイティブに携わっていたデザイナー・クリエイターはきっと多かったと思います。

どの様なものを、どの様な人に、どの様な方法で。
これはクリエイターの本質です。

そういう意味では、クリエイターが「再評価」されたとも言えるかもしれません。
そして、クリエイターに期待されていることが、より明確に、かつ高度な期待になったとも言えるでしょう。

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