【助成金】これで万全!助成金に対応するための賃金台帳・出勤簿マスター術

労働者の働く環境改善のための雇用関係の助成金は、本年度もいろいろと打ち出される予定です。導入を検討する会社も多いかと思いますが、ただ、どの助成金も申請するための要件がいくつも設定され、揃えなければいけない書類も多く、申請手続きはなかなか複雑です。
そこで今回は、助成金の種類に関わらず「必ず用意しなければならない書類」である、労働者の『出勤簿』と『賃金台帳』についてお伝えします。これさえ整備しておけば、必要書類の準備時間が大幅に短縮できます!

 

出勤簿、賃金台帳ってどのようなもの?

『出勤簿』や『賃金台帳』がどのようなものなのか、まずはその基本的ポイントを説明します。

そもそも、この出勤簿や賃金台帳は、助成金の申請に関わらず労働者に適切に働いてもらうために必要な書類であり、法律で作成が義務づけられています。したがって「作っていない」は言い訳にならず、違法なのです。

まずは書類の内容を理解した上で、正しく作られているかを確認しましょう。

 

出勤簿とは

出勤簿とは、「労働者が何時から何時まで、どのくらいの時間働いたかを記す書類」のことです。
この出勤簿の内容をもとに勤怠状況を管理し、給与計算が行われることになるため、労務管理には欠かせない書類です。

出勤簿には、法律上定められている様式はありませんが、基本的には、出勤時間と退勤時間の把握ができる内容ならばOKです。

たとえば、労働者が出退勤時に打刻する「タイムカード」も、出勤簿の一つです。
わざわざ記載する必要がなく、労働者が自身で打刻作業を行うため、経営者や労務管理者の手間をかけずに管理をすることができます。

また、月ごとに記載欄を設け手書きで出退勤時間を記入させる場合や、ICチップが施された社員証をかざすことで自動的に勤務時間が管理されるITシステムもあります。

なお、給与計算では出社時間、退社時間のほか、休憩時間、残業時間、直行・直帰などの項目から総合的に月に何時間働いたかを計算し、実際の賃金に反映させていきます。
日ごろから出勤簿に上記のような項目欄を設けておくと、給与計算の手間が省け適正な金額を効率良く割り出すことができるので有効です。

 

賃金台帳とは

賃金台帳とは、会社内で保存する「給与明細書」のようなもので、年末調整の際にも使用される重要な書類です。

月ごとの給与の締日が過ぎると、給与計算担当者は勤怠状況をもとに各労働者へ支払う給与額を算出します。そして、支給額の決定理由が一目瞭然となるよう、出勤日や出勤時間、時間外労働、各種手当の内訳、保険料の控除内容を記した「給与明細書」を作成し、各労働者へ手渡すことになります。

ここまでは、中小企業含め、ほとんどの企業でも行っているかと思います。
ポイントとしては、給与明細書は労働者へ渡してしまう書類であるため、給与を支給する会社側でも同様の書類を保管しておく必要があるということです。
そのために作成されるのが、賃金台帳です。

なお、前述の出勤簿と賃金台帳は、労働者の情報が記載された「労働者名簿」とともに、「法定三帳簿」と呼ばれています。
会社の規模や雇っている労働者数に関わらず作成が義務づけられており、作成後は3年間保管しなければならない、と労働基準法で定められています

 

雇用契約書とのリンクが不可欠

雇用関係の助成金を申請する際には、先に説明した出勤簿や賃金台帳を、ほぼ必ずといっていいほど必要書類として求められます。

これは、助成金の申請を決定する労働局や労働基準監督署、各種機構が、支給するに値する会社なのかをチェックするためです。
出勤簿や賃金台帳を見れば、サービス残業や未払い賃金などの違法行為を見抜くことができます。適正に給与計算が行われ、適切に支給しているかを審査し、通った会社のみ、「OK!」として、助成金を受け取ることができるのです。

そして、助成金申請の際には、もう一つ、提出が求められる重要書類があります。
それは『雇用契約書』です。

雇用契約書が必要となる具体例として、キャリアアップ助成金の正社員化コースを挙げてみましょう。これは、有期雇用者を、期間の定めのない正社員に転換させることで助成を受けられる制度です。
労働基準監督署は、適正に転換が行われたかどうかを、転換前・転換後に交わされた雇用契約書で判断します。そのため、申請時には必ず転換前後の雇用契約書の提出が求められます。

雇用契約書は会社によっては労働条件通知書とも呼ばれており、使用者である会社と労働者が雇用契約を結ぶ際に作られる、契約の内容を記した書類です。
書面には、契約期間、仕事に携わる場所、労働時間、残業や休憩・休日・休暇、賃金額や計算期間・支払方法、退職や定年事項、昇給の有無などの項目を記す義務があります。

労働者が雇われる際に交わした労働条件を把握する目的で、上記のキャリアアップ助成金以外の制度の場合でも、雇用契約書の提出がほぼ間違いなく求められることとなります。
また、出勤簿や賃金台帳の内容をチェックする際にも、雇用契約書が用いられています。雇用契約書で交わした契約通りに労働者が働き、正しく給与が支払われているかを確認するためです。

つまり、出勤簿や賃金台帳は、雇用契約書の内容に沿ったものにしなければならないのです。当初の契約通りに労働者が働いているかをチェックするツールにもなるため、すべての書類を即時に確認できる場所に保管し、月ごとに書類同士をリンクさせた内容で作成していく必要があります。

 

監督署のチェックポイントとは

次に、出勤簿や賃金台帳を提出した際に、助成金の支給を決定する立場にある『労働基準監督署』がどのようにチェックしていくかを説明しましょう。

労働基準監督署は、厚生労働省の管轄となる機関で、各会社が労働基準法をはじめとした法令に沿って運営されているかを「監督」する場所です。つまり、会社が法定の最低基準をクリアしているかを審査する機関です。

チェックポイントの一つとして、まずは最低賃金が挙げられます
最低賃金とは、最低賃金法という法律に沿って国が地域ごとに時間単位の額を定め「この金額以上の賃金を労働者に支払いなさい」と義務づける制度で、県ごとに金額が定められています。

まずは、会社所在地の最低賃金額を確認し、労働者に支払っている金額と照らし合わせてみましょう。助成金を受け取るためには、会社が労働者に対して適正な金額を支払っているかも審査基準となります。もしも最低賃金額を下回っていた場合は、間違いなく監督署から指摘を受けることになるため、是正しなければなりません。

なお、最低賃金額は毎年10月前後に更新されるケースが多くあります。全国的に最低賃金額は上昇傾向にあるため、今年は良くても来年はアウトかもしれません。くれぐれも注意しましょう。

その他のポイントとしては、まずは出勤簿に記載された労働者の出勤日数や労働時間が、以下に列挙した内容をクリアしているか審査されます。
・労働基準法における基準を超えていないか。36協定届で残業時間を届け出ている場合は、その範囲内におさまっているか。
・雇用契約書で交わされた労働時間、残業や休憩・休日・休暇に沿っているか。
・就業規則や賃金規程の内容に沿っているか。

また、賃金台帳に記された内容が、以下に列挙した内容をクリアしているか審査されます。
・出勤簿に記載された勤怠状況が正しく反映されているか。
・雇用契約書や就業規則、賃金規程の内容に沿った金額が支払われているか。
・基本給と手当の内訳が、雇用契約書や就業規則、賃金台帳に記された額と合致しているか。

特に賃金台帳の場合は、賃金支払期間が2ヶ月にまたがっている場合などは日数計算を間違えやすい傾向にあります。必ず、出勤簿から目視で日数を数えるなどのアナログな確認法を取るようにしましょう。

 

法律で定められている事項とリンクするので、しっかりと法律通りの運用ができている企業は、おそらくそこまで大変ではないでしょう。プラスちょっとの工数で、助成金対策がぐっと楽になります。

一方、中小規模の企業で専任担当者がいなく、法定通りの運用ができていない企業などでは、まずは運用体制を作ることからとなります。経営者からすると、ちょっと頭の痛い問題かもしれませんが、助成金だけでなく、企業として問題ない体制を構築することは大事なことですので、ぜひ参考にして取り組んでみてください。

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