【いろいろな色】金より高価な「青」に、ミイラ由来の「茶」。「色」にまつわる豆知識や不思議な話

今回のコラムでは、大きな括りで「色の豆知識・うんちく」についてお話させていただきます。そのため、技術的なことではなく箸休め的なトピックです。普段、何気なく使っている色も、角度を変えて調べてみると新しい発見があり、なかなか興味深いものです。
たとえば、今「普段」という言葉が出ましたが、私たちは今や多くの色を簡単に利用することができます。紙でもWebでも、勘所を押さえていれば、ある程度自由に色を操ることが可能です。しかし、昔はそうではありませんでした。そんな色にまつわるストーリーをどうぞ。

 

金より高価な青

現在、デザイナーが制作物において「この色を出したい」と思った場合、それほどコストをかけることなく実現することが可能です。ほしい色を出すためのツールもテクニックもある程度浸透しています。
しかし、今より数百年の昔には「金より貴重である青」が存在していたのです。

その高価な顔料の名は「ウルトラマリン」。金より高価な色として、多くの芸術家がその「青さ」を求めました。

ウルトラマリンの原料はラピスラズリで、当時はアフガニスタン北部の乾燥地帯でのみ採掘されていました。その貴重な鉱石が海を渡ってヨーロッパまで運ばれたんですね。これが『ウルトラマリン=海を越えた』という名の理由です。

それ故、高名な芸術家でさえも手に入れることが難しく、ミケランジェロの「キリストの埋葬」が未完であるのは、ウルトラマリンの顔料を彼が手に入れられなかったことが原因であるとも言われています。また、『真珠の耳飾りの少女』でお馴染みのフェルメールは、これを使いすぎた結果、家族を借金まみれにしてしまったそうです。

余談ですが、ラピスラズリは大昔からエジプトのスカラベや玉飾りなどの魔除けや装飾品に使用され、クレオパトラが粉末にしてアイシャドーに使っていたことでも知られています。
今では廉価な合成ウルトラマリンが存在していますが、その昔、ラピスラズリ由来の青は高価で、高貴な人や物にしか使用できなかったのです。

家族や知人を巻き込んだ借金は迷惑千万ですが、そうしてでも使いたかった「青」は、現在でもなお、多くのクリエイターを魅了し続けています。

 

ミイラ由来の茶

エジプトの話が出てきましたので、「マミーブラウン」のことにも触れましょう。
勘の良いならば字面でピンと来たでしょう。もっとも、見出しでネタバレしていますが……。そう、「マミーブラウン」とは、ミイラ由来の茶色なのです。

16、17世紀頃のヨーロッパでは、エジプトとの交易により盛んにミイラが輸入されていました。解剖ショーなどの見世物や万能薬として需要が高かったミイラは絵の具としても利用されることとなります。

このミイラブームは凄まじく、由緒正しきエジプトミイラはもとより、ヨーロッパ人の死体を乾燥させて「エジプト産」と偽る「産地偽造問題」なども騒がれる始末だったそうです。

見世物にしたり、盗掘して売りさばいたりと、冒涜も冒涜、趣味の悪い話ですが、悪いだけで片付けるには余りに惜しいお話です。今の倫理観や道徳観だけが正しいとは限りません。こういう歴史もあったのかと当時に思いを馳せることで、知識や教養というのは増えていくものです。

少々恐ろしい歴史を持ちつつも、豊かな茶系統を持ったマミーブラウン、もちろん現在の絵の具はミイラ由来ではありませんので、安心して使用してください。

 

食べられる赤

「食べ物や飲み物の赤は、虫をすり潰した赤である」

こんな都市伝説を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。有名なお話です。
真偽のほどもはっきりしているので、都市伝説というよりは雑学ですね。

この「赤」は「カーマイン(洋紅)」と呼ばれ、コチニールカイガラムシを代表とした、特定のカイガラムシから作られます。食品だけでなく、造花や化粧品にも用いられ、絵の具やインクとしても多岐に渡り利用されています。

さて、カーマインは古代より織物や絵画に用いられていました。
その明るい赤の色素はミケランジェロの絵画や、イギリス軍の軍服、王立カナダ騎馬警察の制服などに見ることができます。かつて都市伝説的に語られたカーマインは、食材のみならず、織物に化粧品にと、意外と長い歴史があるものなのです。

虫からとった赤色が食品に使われていると聞くと悪い気もしますが、このように歴史を辿ってみると、少し見方が変わる面もあるのではないでしょうか。

ちなみに、「カーマイン」は、ラテン語のカルミヌスに由来します。カルミヌスはアラビア語のキルミツに由来し、「クリムゾン」も元は同じ語源です。こうした色名の由来を調べてみるのも、面白い発見がいろいろとあるものです。

 

さて、3つほど色の歴史にまつわる小ネタをご紹介させていただきました。普段使っている青や茶、そして赤。どれかひとつとっても、今回お話した以外にも多くの歴史があり、さまざまな使われ方をしています。

こういったことを調べてみるだけでも、何かを制作する際に、色の使い方は意識的・無意識的に関わらず、変わります。
また、「なぜこの色を使ったのか」、「なぜこの色でなければいけないのか」という説明も格段にし易くなりますので、プレゼン時の説得力も増すというものです。

ぜひ、今回のお話以外にも、色の不思議を調べてみてください。きっと何かの役に立つはずです。

 

【いろいろな色】
金より高価な「青」に、ミイラ由来の「茶」。「色」にまつわる豆知識や不思議な話
映画や音楽から紐解く各年代における色の移り変わり

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