海外のクリエイティブ事情~大注目のCM4 選!!イギリスのクリスマス商戦2018

クリスマスが最大の年中行事であるイギリスでは、毎年クリスマス商戦時期に合わせ、スーパーや百貨店などの小売業界を中心に、各企業が大予算をかけたハイクオリティのクリスマステレビCMを製作します。毎年、盛大に繰り広げられるCM合戦を心待ちにしているイギリス人も多いほどで、メディアでの話題度やSNSなどのシェア数を各社が競い合います。今回は、ほっこり系や賑やか路線、社会派など、2018年、イギリス人の心を動かしているクリスマスCMを4本厳選してご紹介します。

 

“The Big Night”〈大手スーパー「Sainsbury’s」〉

英大手スーパー「Sainsbury’s(セインズベリー)」のCMは、なんと映画『グレイテスト・ショーマン』の監督マイケル・グレイシーが手がけています。

10才にも満たないような黒人の少女が、星の着ぐるみを着てクリスマス発表会のステージ中央にひとり立つシーンから始まります。お母さんが心配そうに見守る中、少女はどこか自信なさげに「ニューラディカルズ」の90年代ヒット曲『You Get What You Give』を歌い始めます。

しかし、お母さんの優しい視線と周囲のサポートで、徐々に少女の瞳がキラキラと輝き出します。脇を固めるソケットの着ぐるみや、女王風の仮装をした子供たちがイギリスらしい遊び心を添えてくれます。やがて、少女の透き通る歌声が会場に響き渡り、大歓声を浴びながら少女が宙を舞い上がりクリスマスツリーの上に着地という感動のクライマックス。

日照時間が短かく寒さも厳しいヨーロッパのこの時期、大ヒット映画『ラブアクチュアリー』を思い起こさせるような、ほっこりと心温まる正統派クリスマスCM。こちらは企業ブランドイメージの向上を図った作品となっています。

 

“Bring Christmas Home” 〈庶民的スーパー「Asda」〉

賑やかなプロモーションでクリスマスムードを盛り上げたのは、庶民的スーパー「Asda(アスダ)」。

サンタクロースが雪山から大砲を打ち上げると、赤毛がかった三つ編みの女の子が、家の中でお絵かきをしていた時「その音」に反応して顔をあげます。大砲が白い丘に落下した途端、クリスマスの定番ソング『Baby please come home(ベイビー・プリーズ・カム・ホーム)』が鳴り響き、ドレスやコスチュームに身を包む人々が突如現れます。大勢の人々が、バイクやソリ、スキーなどで次々と坂を駆け下りるシーンの連続に続き、一体何が起きたのかと窓に向かう少女。

車上でクリスマス料理を準備中のトレーラー、色とりどりの前菜やご馳走を食べ始める人たちを乗せた車、クリスマスツリー、大きな雪だるままでが真っ白な坂を一斉に下り続け、アドレナリン全開のパレード一向。そして、少女の家の前に到着します。
少女が玄関を開けたところで、「Everything you need to bring Christmas home(クリスマスに必要なものすべてを家までお届けします)」のナレーションというエンディング。イギリスはEU離脱を数ヶ月後に控え、どこか暗い雰囲気が漂っています。そんな嫌なことは一時でも忘れて明るい気分になれるような、派手で楽しいショー仕立てが特徴のCMです。

 

“The boy and the Piano” 〈百貨店「John Lewis」〉

毎年、良質な映像を駆使しクリスマスCMを届けてきた英百貨店「John Lewis(ジョンルイス)」。2018年は、なんと大御所の英歌手「エルトン・ジョン」を起用、これまでの人生を振り返るというストーリー手法できました。

冒頭シーンは、現在のエルトンが自宅で名曲『Your song(僕の歌は君の歌)』をピアノで弾き出すところから。次に、大ホール→スタジアム→プライベートジェットの中→レコーディングスタジオ→地元のライブハウス→小学校の講堂と、様々な場所でピアノを奏でるエルトンが次第に若返りつつ、同時に時代もさかのぼっていきます。そして1950年代、幼いエルトンがクリスマスに家族からピアノを贈られて、初めて鍵盤に触れるシーンから再び現代に戻り、曲が終了するというものです。

「Some gifts can be more than just a gift(ある贈り物は、単なる贈り物以上の価値がある)」というコピーが画面に登場し、まるで穏やかな短編フィルムのような作りになっています。

エルトン・ジョンが2019年を最後にツアー活動から引退するということもあり、意味深とも取れる内容、そして膨大なプロモーション予算に対してブランドイメージへの貢献度に疑問の声もあり、賛否両論が集まりました。

 

“Say hello to Rang-tan” 〈スーパー「Iceland」〉

そして2018年、イギリスで最も注目を集めたCMは、冷凍食品を中心に扱うスーパーの「アイスランド(Iceland)」の90秒アニメ作品です。
パーム油の生産が森林に与えている影響を世間に広めようと、英国人女優「エマ・トンプソン」をナレーターに迎え、NGO団体「グリーンピース」と「アイスランド」が共同制作しました。リリースと同時に大反響を呼んだものの、「政治色が強すぎる」ということで政府に『テレビ放送の禁止』を命じられました。

内容はある日突然、一見可愛らしいオランウータンの「ランタン」が女の子の部屋にやってきて、観葉植物を倒したり部屋を汚したり自分勝手な行動をします。困った女の子は、ランタンを部屋から出て行かせようとしました。しかし、その前に事情を聴くと「住む故郷の森が人間によって破壊され、家族を失い、ここに辿り着いた」ことをランタンが涙目で振り返ったのです。女の子は、優しくランタンの肩を抱き、“友だちみんなにこの話を伝えること、お互いの未来のために一緒にがんばること”を高らかに宣言。

そして、最後「真っ黒なテロップ」画面が現れ、“パーム油目的のために、環境破壊やオランウータンの生息数が減少している”、“アイスランドが自社ブランド製品へのパーム油使用を中止する”という、このCMの一番伝えたいメッセージが表示され、非常に強いインパクトを与えました。

このCMは『放送禁止』によって、逆に、FacebookのシェアなどSNSを中心にニュースが広がり、YouTubeの動画再生回数がわずか3週間で550万回を超えたのです。「リスクを犯してまで企業理念を社会にアピール」したことが今年一番の話題になり、飛躍的な「企業イメージアップ」に繋がりました。

 

まとめ

最新のクリスマスCM4選をご紹介しました。今年の世相を反映しながら、イギリスらしいユーモアやインパクトを交えた作品が集まりました。CMという限られた時間の中で、最大限の効果を活かすべくそれぞれ練りに練られたものばかりです。感性や理念で大きくイメージを変えるブランディングやプロモーション手法、そしてCMの内容や映像で与えるイメージ戦略、また社会的メッセージなど。単なる予算との比例話だけでは片付けられない、その奥にある「企業の戦略」を考えてみるとさらに違った目線でCMが映るかもしれません。

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