Web、グラフィック、立体などのデザインにおいて、ビジュアルイメージを効果的に作る方法を前回話しました。現在の広告においては、そのビジュアルが1つだけのメディアやツールで使われ終わることはほとんどの場合ないでしょう。多くの場合、ビジュアルは様々に展開されます。そして、中には残念なことに、他のメディアに使用されたビジュアルが最初のものと違うイメージを伝えてしまっているものがあります。そこで今回はビジュアルイメージを幾つのメディアに使う場合の注意点を示してみましょう。
参考【ビジュアルイメージの作り方】
http://www.y-create.co.jp/forcreator/visual_1st/
目次
■はじめに
ここ数年、ますますデザインの応用が多様化していると思います。
WebサイトやWeb上の広告用に考えられたビジュアルも、より多い露出度を得るためにTV CMへと使われ、また広告は1つのメディアだけで終わることは数少なくなり、様々なメディアを横断するクロスメディアのキャンペーン展開が多くなっています。パッケージのビジュアルも、広告に、そしてツールやSNSでの紹介に使用されます。
では、キービジュアルをメディア展開する時の注意点をご紹介します。
■大前提=メッセージを変えない
最初に、あまりに当たり前のことです。他のメディアに展開する時、最も重要なのは、そのビジュアルイメージが持つメッセージを変えないことです。どのメディアも元のイメージと同じ機能を果たさなければなりません。
例えば、
前回に例として取り上げた「火星住まいの美しい老婦人」。これは「新しい美しさ」を表現させるためのものでしたが、いつの間にか別のイメージを発しては困ります。
仮に元の「新しい美しさ」が新しい香水のロンチだとして、別のメディアではまるで高級リゾートへの案内のような「非日常での休息」になってしまっては、メディア展開の失敗です。
様々な要因によってメッセージが変貌してしまっているケースを、実際に現実社会でいくつも見かけます。
以下は、実際に見かけた例を元にまとめています。
■世界観
上の大前提と似て捉えるかもしれませんが、メッセージは同じでもいわゆるトーン&マナーが変わってしまっても芳しくありません。
例えば、
イラストのテイスト違いはよくあります。もちろんメインビジュアルのイラストではなく、サブ的に解説などで使うイラストの世界観が違ってしまっているのです。メインビジュアルと近距離で使用するイラストなら、その世界観の検討が必要でしょう。
また、雑誌に多いのですが、ビークル(個別の雑誌)に合わせて全体の表現を変えることがあります。これはある程度の効果があるようで従来から行われています。この場合も元のイメージの世界観を意識しないと大きくブレた表現になって行きます。
■トリミング
ビジュアルが写真でもイラストでも、あるいは抽象的な図形だとしても、メディア展開する上でトリミングは不可欠になって来ます。ここ数年はスマホやPCにおいてスクロールして見ることも増えて来ましたので、なおさら厄介でしょう。
例えば、
ビジュアルイメージの中にある要素、人物、椅子、背景のスタンド、部屋の窓、その外の風景などなど、それら全てが入れば良いのですが、大事なのは要素を全て入れることではなく、メッセージが確実に届き、世界観を変えないことです。
要素を入れる事に固執するよりも、メッセージと世界観にとって重要な鍵を拾っていく事に苦心するべきです。
元画像と大きく違う比率のリサイズでは大胆に要素を捨てるが必要です。各要素がイメージ内で受け持つ役割を把握して何度もトライしてみましょう。画像を回転させることもトリミング作業に含まれますので、これも試してください。
比率が大差ないリサイズを何度も繰り返すうちに大きく比率が変わってしまう事もあります。必ず元画像と比較しながら作業することをお勧めします。
そして、気を付けたいのが、画像の大きさです。SNSの広告やニュースのようにあまりに小さく扱われる時には、全く違うものに見えることすらあります。充分確認をしましょう。
■色
色の影響はとても大きいです。当然、ビジュアルの色の話ではありません。
メインビジュアルを囲む周囲の色が印象の操作をします。
例えば、
元写真が白地に周囲を囲まれていて、展開した別のメディアでは真っ赤に囲まれた写真では、印象がかなり違うのは想像がつくと思います。
配色の基本として、色はそれ自体ではなく、隣接する色によって違う色に見えてしまうことをご存知でしょう。その現象は目に映るもの全てで常に発生しています。
背景、隣接、近距離にあるものが大きく作用しますが、その時の色の面積も大きく関与します。特に、地色と線を注視してみてください。
■ネガ
色と形においてネガを意識することも意義深いことです。
これは、ビジュアルを取り囲む周囲の色、そしてレイアウトなど形のネガです。これらが、ビジュアル内の何かと必要以上に呼応してしまい、妙な効果を引き起こします。
例えば、
ポスターでは、ビジュアルの下に白い空間があり青い色でコピーが入っていたとします。リーフレットでは他の事情から青地に白抜きのコピーが表現されています。
このようなメインビジュアル以外の要素の色の反転は決して少ないことではありませんが、このような時に自動的にビジュアルを配したのでは、馴染まないケースがあります。
また、周囲の色の面積比が変わりネガのような状態になる事もあります。要注意です。
形のネガは再構成されたレイアウトの余白部分の形によるものです。ネガの形を意識して見るようにしましょう。
■フォント
フォントの影響は後になってじわりと来ます。
主要なフォントは、メディア展開する際に指定をすると思います。しかし、指定外の部分の文字要素がメディアによってはすごく主張して、想定外の結果になることがあります。メディア展開の各ビークルや、ツールなどをよく検討してみましょう。
例えば、
プロモーションツールの中で価格や時間など数字が大きく掲載されたとして、一見シンプルで個性的ではないゴシック体が、繰り返し使用されることによって全体の世界観と齟齬を来たすことがあります。
また、似てるフォントと言う軽い気持ちで使ったフォントが、後々に主張し始める事もあります。可能ならブランドフォント、コーポレイトフォントを管理できると良いでしょう。
■モーション
リッチメディアと言う言葉も死語化しつつあるほど、Web上で動画を多く見かけます。
その中で注意が必要に思えるのは、モーショングラフィック的なものです。本当にその効果が元のイメージビジュアルにとってベストなのか精査する必要があります。
例えば、
キャンペーンサイトのトップ画で、メインビジュアルが黒い画面からフェイドインするとします。
アフターエフェクト(Adobe After Effects)の「効果」でサクッと作ってしまって本当に良いのでしょうか?TV CMやYouTubeの表現と離れてしまう可能性があります。全体をコントロールすることが必要です。
■外部発注
予算がある程度大きい仕事で複数のメディア展開をする場合、外部スタッフの手を借りることも多くなります。この時には外注先へのコミュニケーションが非常に重要になります。人やプロダクションが変わることで印象が違ってしまうケースがあります。
発注側は、目の届かないところで勝手なことをされたと言いますが、一方、受注側は説明不足の不満を口にすることになります。
参考【制作外注】プロダクションのポテンシャルを引き出す10のキーポイント
http://www.y-create.co.jp/forbusiness/outsourcing/
http://www.y-create.co.jp/forbusiness/outsourcing_2nd/
さて、こう書いてきますと、これらの要因はイメージを展開する時だけでなく、デザイン作業そのものに欠かせないものばかりです。そしてどの要因についても、イメージの展開作業が「ルーチン作業」になってしまい、当初の「誰に何を伝えるか」を見失った結果に思えます。
忙しい日々の中でも、本来の主旨を忘れない仕事ができるように心がけてください。
<ビジュアルイメージの作り方>
第1回 ~想像、記憶、資料探し~
第2回 イメージの展開/クロスメディアへの広げ方について