【働き方改革:第2回】クリエイティブ業務はどこへ? 雑務に追われ1日が終わる現場の本音

「働き方改革」が声高に叫ばれていますが、厚生労働省発表の法律案では「長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等」との項目が設けられ、「労働時間の是正」に関する制度の見直しについて触れられています。しかし労働時間の是正だけで上手くいかないのは、もはやご承知の通りでしょう。確かに是正は急務ですが「各々のパフォーマンスを最適化する」ということを外し、「改革」には無理があるように感じます。今回はそのパフォーマンスについて考えていきたいと思います。

 

労働時間の是正と一緒に考えるべき「中身」の問題

現在、どの企業も定時退社を促したり、労働時間を見直したりと試行錯誤を続けています。「プレミアムフライデー」を導入してみたという企業もあります。
働き方に対して向き合い、企業・個人が一丸となり積極的に改革していくことは素晴らしいことでしょう。

しかし、ここで一つ見落とされているのが「労働時間の中身」です。
残業時間や退社の管理などは、いわば仕事の外側です。卵の殻ばかり突いても、内部へ振動は伝わるものの劇的な変化は起きません。

クオリティーと高い生産性の同時進行、つまり「パフォーマンスの最適化」についての言及がなされていないのです。
物理的な時間制限をするのであれば、それと同時に、仕事の中身も最適化(もしくは制限)しなければなりません。当たり前の話ですが、働く時間を短くするのであれば、その時間内に行う業務も相応の調整が必要です。

 

「改革」という名の仕事の「並行移動」

制作会社をはじめとしたクリエイティブ関連企業の現場の声として、「労働時間が短縮されたので、制作物のクオリティが上がりました!」という話は聞いたことはあるでしょうか?
むしろ、「残業ができずに、家に持ち帰って仕事をする羽目になった」といったケースが増えているという話をよく聞きます。

「働き方改革で残業時間が厳しく管理され、早く帰宅できるようになりました。ただ、定例会議や報告書作成などのような雑務自体が減ったわけではないので、結局、社内での作業時間が圧縮される形になってしまいました。そのため仕事を持ち帰らざるを得ず、単に仕事場所が会社から家に移動しただけの状態になっています。」

そう語ったのは、デザイン会社に勤めるグラフィックデザイナーのAさん。
今回さらに、クリエイティブ職の複数人に労働時間の短縮について質問を投げかけてみましたが、Aさんに限らずほとんどが「雑務や事務」に時間を取られクリエイティブ作業が後手に回る、というクリエイターとして本末転倒的な悩みが多く聞かれました。

 

本当に削減しなければならないものは何か?

クリエイティブ系の仕事において、会議やメール返信などの雑務の時間は変わらず、クリエイティブの時間が圧縮されるのはかなりクリティカルな問題であるといえます。

Aさんのようなデザイナーであれば手や頭を動かし、クリエイティブワークに時間を割くことが主たる「仕事」です。その時間を最大限に確保してこそ最大の利益につながります。逆に、それ以外の雑務に追われる時間が増えるほど、会社はそれに比例する形で損失が増えることになってしまいます。

例えば、「日本マイクロソフト」。自社製品である「仕事の時間をどのように費やしたか」をAIが判断し、改善を提案してくれるツール「MyAnalytics」を4部門で4ヶ月利用・検証した結果、余計な会議やメールの処理が激減、さらにコミュニケーションがより円滑になり、合計で3,579時間の削減に成功したといった事例もあります。
(Microsoft事例:https://swri.jp/article/228

クリエイティブに関することは必ずしも時間で測れるものではありません。
けれども、良質なアウトプットには、思考や創造性の追求に対しての時間が必要です。時間の余裕が気持ちの余裕を生み、その余裕が創造性やひらめきを高めることも事実であり、雑務や事務と大きく異なる点です。

クリエイティブ企業での働き方を考えるとき、ただの労働時間削減ではなく「クリエイティブワークの確保=雑務的作業の削減=○○」という図式で、「○○」に入るべき事案を具体的にあてはめて検討すると、より現場に近い形での「改革」ができるのではないでしょうか。

 

適材適所。クリエイターの特性とパフォーマンスの維持

多くのクリエイターに聞いてみると、創造することは得意だが、雑務やルーチンワークなどのタスクは苦手であるという人も少なくありません。
もちろんクリエイターとて社会人ですから雑務をこなすことは当たり前で、それも仕事のうちだという意見も当然あるでしょう。

しかし、たとえば「電話応対」や「プレゼン資料のコピー」などで手を止める状況が度重なれば、ストレスも溜まりモチベーションも下がったということはクリエイターでなくても経験があると思います。頼んだ方はちょっとしたつもりでも、それが「クオリティ低下」を招く大きな要因にすらなることもあるのです。

コピーを例にすると、「味の素株式会社」では会議資料をデータ化し、タブレット端末で確認するペーパーレス化を推し進めています。その結果、資料作成時間や会議時間そのものまでを削減することに成功しているそうです。
たかがコピーと思われるかもしれませんが、そこに費やされる時間がいかに多いか、そして削減することによって得られたものも多いということがよくわかる事例ではないでしょうか。
(味の素事例:https://bizhint.jp/report/98789

また、これは雑務との関係性だけでなく、クリエイティブ制作の業務の中を見ても改善の余地はあります。
例えば、キービジュアルの制作やツール展開のうちでメインとなるパッケージやポスターは正社員のデザイナーが担当し、細かい展開物やサイズの変更などは派遣のデザイナーが担当するなど、適材適所による「効率化と時短可」の両立が可能でしょう。

ここまで、クリエイティブ業務に従事するクリエイターの立場に寄って話をすすめてきましたが、これは「雑務が苦手なクリエイターを甘やかせ」と言うわけではなく、「それぞれの役割に集中できる空間作り」が大切であるということです。そして、結果として「パフォーマンスの向上」という「改革の根本」に行き着くのです。
もちろん、クリエイター自身も「自らの生産性を高めるためには?」と常に問い続けなければなりません。職場環境は誰かが良くしてくれるという考えは牧歌的である上に、クリエイターの発想としてはあまりにも乏しすぎるでしょう。

 

まとめ

クリエイティブ企業だけではありませんが、表面を取り繕うだけの「働き方改革」は無駄であることはもうおわかりかと思います。
現場の人間も含めた関係者全員が当事者意識を持ち、さらに最大限のパフォーマンスを生み出す環境を創造することが「改革」と呼ぶにふさわしいものになるのです。

【参考】働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案の概要(厚生労働省)

 

【働き方改革】
第1回:日本とどう違う?アメリカの働き方の現状

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