【前編】アメリカのスタートアップ企業インタビュー~ビジネス収益化のしくみ~

嶋英樹氏

「アメリカのテックスタートアップ企業」と聞くと、みなさんどんなイメージが浮かぶでしょうか?
今回は、世界中でもっとも注目されている語学学習アプリ「Duolingo」のシニアエンジニアとして働く嶋英樹(しまひでき)氏に徹底インタビュー!語学学習アプリでは郡を抜くDuolingoのインスピレーションの源とは?広告なしの無料アプリのビジネスのからくりとは?ユーザー体験を最適化する仕組みとは?

【プロフィール】
嶋 英樹(しまひでき)
1981年東京生まれ。早稲田大学卒業後、単身渡米。米カーネギーメロン大学コンピュータサイエンス学部にて博士号取得。
現在Duolingoのシニアソフトウェアエンジニアとして活躍中。

 

楽しくてやめられない!語学学習の概念を変えたDuolingoアプリ

Duolingoは2012年にペンシルベニア州ピッツバーグにある、コンピューターサイエンスでは世界最高峰といわれるカーネギーメロン大学のLuis von Ahn教授から生まれた無料アプリです。

中南米の途上国であるグアテマラで生まれ育った同氏は、だれでも無料で語学を学習する機会を与られることを目指してこの会社を設立しました。ゲーム感覚で語学学習ができるのが特徴で、1億5千万人以上が使う最も人気のアプリとして急成長しています。
現在約20言語を体系的に学ぶことができるこのアプリ。2012年にニューヨーク市立大学が発表した研究によると、Duolingoを34時間使用することで、大学の一学期分の勉強量に相当する結果がでるなど、その学習効果にも大きな期待が寄せられています。

 

大学発!ゲーム好き集団が作る話題アプリの魅力

―たくさんの語学学習アプリが存在する中で「Duolingo」が優れている点はなんでしょうか?

嶋:まず特筆すべきなのは、大学から生まれたアプリということで、最先端の言語学研究の成果や機械学習などの高度な技術がたくさん取り入れられています。
語学学習はどうモチベーションを持続し続けさせるかが一番の課題です。インターフェイスデザインは言語を学んでいるという感覚を忘れさせるようなゲームの要素をふんだんに取り入れています。例えば、ゲームではよくある、連続正解をすると「コンボ」が出てこれが溜まると経験値が上がったり、ライフが伸び縮みしたりと、ビデオゲームで育ってきた世代が楽しめるデザインです。

また、隙間時間でレッスンができるように、一つのレッスンは10分以内で構成されていて、簡単な概念「食べ物」から複雑なものに徐々にレベルアップが図れるようになっています。これにはプロダクトデザイナーの貢献が大きくて、こういうデザイン感性を磨くにはゲームをしたりするのも重要な仕事なんですよ。Duolingoのデザイナーやエンジニアたちは「ポケモンGO」とか「クラッシュロワイヤル」などの流行りのゲームで遊んでいる人も多くて、ゲームからのインスピレーションがアプリ開発に生かされることも多いんです。

Duolingo社内風景1

Duolingoの内部の特徴としては、「A/Bテスト」といってある仮定を作った上でユーザーをランダムに半分に分け、2つの異なったテストをしてそのインパクトや学習効果を分析して検証していくことを繰り返しています。例えば、画面に出てくるボタンの位置や色まですべてA/Bテストで検証し効果の高い方を採用していく方式をとっています。
日本では「センスのいい」と俗に呼ばれている人がデザインしたものを、テストせずにそのまま施策する傾向がありますが、Duolingoの場合はユーザーの反応がすべてです。常に数十種類のA/Bテストを平行して走らせて、日々アプリ体験を最適化させているんですよ。

また日本のゲームのアプリなどは、有名人を起用しテレビ広告で一斉にユーザーを広げる戦略をとっているケースが多いと聞いていますが、Duolingo では口コミやインタビュー記事から自然にユーザーを増やしているのも特徴です。実際に、今までベンチャーキャピタルから調達した約80億円の資金の用途はプロダクトの改善と人件費で、広告宣伝費にはほぼお金をかけていません。

Duolingo社内風景2

 

広告ゼロ!無料アプリの収益のからくり

―広告もない無料アプリでどのように会社は収益を得ているのでしょうか?

嶋:以前はCNNやBuzzfeedなどのニュースメディアから翻訳を受注して、アプリの中に練習問題として取り込みユーザーが翻訳したテキストを納品する仕組みをとっていましたが、今は「Duolingo English Test」というテストサイトがメインの収益になっています。

創始者のLuis von Ahn 氏は中南米グアテマラの出身で、当時アメリカに留学したかった彼はTOEFLを受験しなくてはいけませんでした。ただグアテマラにはTOEFLを受験できる会場がなく、飛行機で隣の国にいって250ドルという高額なテスト代を払わなければいけませんでした。
もっと気軽に安くテストを受けられる方法はないかと考えた彼が編み出したのがこの「Duolingo English Test」です。インターネットさえあれば、携帯やコンピューターからいつでも受験でき、読み、書き、リスニング、スピーキングの4つのスキルをたった20分で測定します。しかも50ドルという通常テストよりも破格の料金です。このテストにはさまざまな工夫が施されています。

1. オリジナル問題:
TOEFLの場合、以前の問題を使い回す場合があるのですが、このテストの問題はすべてオリジナル。丸暗記だけで点が取れないようになっています。

2. 本人確認:
以前イギリスでは、TOEIC試験監督を買収する事件があり大問題になりました。このテストでは、試験をしている間デバイスのカメラ機能とスクリーン録画をずっとONにしておかなければならず、遠隔にいる試験官が受験者の目の動きをみてカンニングしていないか、代わりの人が受験していないかを厳しくチェックしています。また、試験前に受験者のIDをチェックする機能もあり、替え玉受験を防ぐ効果があります。

3. インタビュー機能:
今までのテストでは英語の読解力を判断できても、どれくらい英語が話せるかのテストはできませんでした。このテストではバーチャル面接のようなもので、あるテーマや質問に沿って受験者が一分間自由にカメラの前で話すという試験があります。TOEFLのテストがとてもいいのに、入学してみると全く英語のしゃべれない留学生が多いと嘆いていた大学側からもこの機能はとても好評です。
現在ではハーバード大学、カーネギーメロン大学がこのテストを採用しています。

また、これは大学入試だけではなく、企業でも使われています。
個人タクシーのUber Brazilはこのテストを有効に活用している好事例です。今年のリオオリンピックに伴い急増する外国人観光客に対し、英語が話せるドライバーを多数採用する際に、Duolingo English Testを使っていただきました。携帯で簡単にテストができるので、これに受かった人には「英語が話せるドライバー」称号が与えられ、英語話者のドライバーを希望する利用者とのマッチングにも使われました。
また、クラウドソーシングのアップワークという会社でもフリーランスを雇う際の英語レベルの測定に役立っているそうです。今後はこのテストをもっと多くの大学や企業で取り入れてもらうことが課題ですね。

社内風景3

 

世界の貧富の差を語学学習によって埋めるという大きなミッションを持ちながら、持続的収益モデルを構築させたDuolingo。
次回はアメリカでのスタートアップ時の採用方法や、社内環境について詳細を伺います!滅多に聞けない生のアメリカスタートアップ事情。乞うご期待!

 

─────お気軽にお問合せください!─────

★クリエイター・デザイナー派遣・正社員の求人の依頼はこちら

★事例集の無料ダウンロードはこちら

★美大生・芸大生の新卒採用はこちら

★制作のアウトソーシング(外注)はこちら

SNSでもご購読できます。