【年俸制と残業代】知らないでは済まされない!? 経営者が注意するべき落とし穴

近年、給与の支払い方法として増えている「年俸制」。この年俸制は「成果主義」を最も反映できる給与体系という意味で、近年多くの企業で導入されるケースが多くなってきました。しかし、年俸制の導入の増加に伴って、「残業代未払い」の問題もそれと比例して増えているのが現状です。「正しい年俸制の知識・残業代との関係」を把握した上で行う評価こそが、成果を重視したとも言えるのです。

そのために今回は、経営者なら注意するべき年俸制と残業代の関係を解説します。

 

日本における「年俸制」の一般的な認識

年俸制は成果主義を基礎として生まれた給与形態で、給与の金額を1年単位で決定するものです。金額に影響するのは仕事の成果や個人の能力です。
ただし、労働基準法では「毎月1回以上の支払いを行う原則」が定められているため、一括で支払われることはありません。12分割して毎月支給するケース、または16分割し2カ月分の金額を夏季・冬季の「賞与」として支給するケースなどもあります。

日本では「年俸制は残業代が出ない」という一般的な認識があるようですが、年俸制という理由だけで企業が残業代を支払わずに済むわけではありません

これは、年俸制だとしても「会社は使用者」で「従業員は労働者」という関係性には変化がないからです。そして、労働基準法37条にも「時間外労働、休日出勤をした労働者には割増賃金を払わないといけない」と記されています。
従って、使用者と労働者という雇用関係がある以上、使用者はこの労働基準法を守らなくてはなりません。

年俸制の代表的な例としては、プロ野球選手を始めとした「プロスポーツ選手」があります。毎年、オフシーズンになると契約更新を行い年俸を球団との話し合いで決めますが、そもそも、プロスポーツ選手は雇用契約による労働者ではなく「個人事業主(自営業)」であることが一般です。ですから「使用者」と「労働者」という関係性ではありません。

通常の使用者と労働者という立場で「残業代は関係ない」という誤った認識は、このようなプロスポーツ選手などの契約との勘違いであり、もともと雇用関係が違うことを理解しなければなりません。

 

年俸制と残業の関係

年俸制では成果や業績に比例した給料の増減が多く、労働時間とは無関係の契約をしているかのような錯覚に陥ります。しかし前述の労働基準法では、労働時間を基準として規制を設けていますので、使用者と労働者の雇用関係がある限り、この「基準」を守らなくてはなりません。

そこで給与の支払基準として「法定労働時間」が関係してきます。
法定労働時間とは、簡単に言えば「1日8時間で週40時間以内」と法的に定められている労働時間です。年俸制だからといって労働時間を把握せず、残業代を無視していいわけではないのです。

ただし、労働契約において年俸の中に「一定時間分の残業代」などが含まれている取り決め、いわゆる「固定残業代(定額残業代・みなし残業)」の制度が設けられていれば話は別です。
この場合であれば、労働契約で定められた時間分の残業代は年俸で支払い済みなので、その分の残業代などを別途支払う必要はありません。
しかし、これについてはその固定残業代制度が「適法に採用されている場合」に限ります。

労働契約で何ら取り決めをしていない場合、または具体的な固定残業時間数や金額などまったく定められておらず、通常の賃金と固定残業代部分が明確に区分できない場合などは、その固定残業代制度は有効ではなくなります。
つまり、その固定残業代がないものとして、通常どおり残業代を支払わなければならなくなるのです。年俸制と残業代の明確な区分を怠り、実際にトラブルになった事例もあります。

以下の章で、どのような顛末になったか見てみましょう。

 

年俸制のあいまい区分でトラブルになった事例

「医療法人社団Y会事件」(最高裁第二小法廷 平成29年7月7日判決)
原告は40代の外科医で、年俸1700万円の雇用契約で神奈川県内の私立病院で勤務していましたが、病院から解雇されて未払残業代を請求しました。この1700万円には「本給・諸手当・賞与」が含まれ、年俸とは別に「医師時間外勤務給与規程」に基づいた時間外勤務に対する給与が支払われていました。

雇用契約では、
1、時間外規程に基づき午後5時半~午後9時に残業をしても時間外労働に対する割増賃金は支払わないこと
2、午後9時以降は時間外労働の割増賃金として支払うが、それにおいては、すでに年俸1700万円に含まれていること

という内容で合意されていましたが、いくら分が残業代にあたるのかは明確に示されていませんでした。

最高裁では「労働契約における基本給などの定めにつき、通常の賃金に当たる部分と残業などの割増賃金に当たる部分を判別できることが必要である。そして、割増賃金に当たる部分が「労働基準法第37条等」に定められた方法で算定した額を下回る場合、使用者がその差額を労働者に支払う義務を負う」と結論付けました。

この最高裁の判例によって職業や賃金の額に関係なく、そして年棒制であっても「時間外労働」に対する割増賃金が明確にされなければならないという原則が確立されました
今回は、医師という仕事が事例でしたので年俸も高額ですが、だからと言って基本給と割増賃金をきちんと判別できるようにしておかないとこのようなトラブルになってしまうのです。

そして、特に残業体質なクリエイティブ業界においては同様のトラブルが十分に考えられる上、「みなし残業」ばかりでは、優秀な社員はみな逃げてしまうでしょう。

 

まとめ

経営者が普段、年俸制について深く考えることはあまりないと思いますが、安易に年俸制を採用し正しい知識がないとこのような落とし穴に陥ります。年俸の中身が基本給・賞与・残業代など、どのように構成され、きちんと明確にされているか、採用段階でも企業と労働者が認識の相違ないよう合意することが大切です。

同じ屋根の下で働いた仲間ともめるのは嬉しいことでありません。トラブルを未然に防ぐためにも、これから年俸制を導入予定なら検討は慎重に、すでに導入済みなら今の年俸制度に穴がないか今一度、確認しておくのがよいでしょう。

出典:
https://www.teamspirit.co.jp/workforcesuccess/law/annual-salary-system.html
https://www.bengo4.com/c_5/c_1637/n_6233/

 

執筆
社会保険労務士法人ユニヴィス 社会保険労務士 池田久輝

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