2025年3月に発表された、厚生労働省の「副業・兼業を通じたキャリア形成及び企業内での活躍に関する調査研究事業報告書」によると、調査対象275社のうち、2022年時点で副業・兼業を認めている企業は53.1%でした。つまり、半数以上の企業が社員の副業を認めている結果となり、今や「副業可」の企業が当たり前になりつつあることが分かります。
とはいえ、「副業を許すと本業おろそかになるのでは?」「競合他社に自社の情報やノウハウが漏れてしまうのでは?」といった懸念もあり、依然として副業禁止を掲げる企業も少なくありません。
では、もしも自社のデザイナーが「副業したい」と申し出て来た場合、クリエイティブ職の副業を認めるべきか否か、どちらが良いのでしょう。
今回は厚生労働省のデータを参考に、デザイナーの副業を禁止した場合、認めた場合それぞれにおける、企業側のメリット・デメリットをご紹介します。
目次
副業を認めた場合のメリット
データでみる、副業を認めた場合のメリット
厚生労働省のデータによれば、副業を認める企業にとってのメリットとして、「従業員の収入増につながった」「従業員のモチベーションが向上した」という回答が上位となっています。

引用:厚生労働省 副業・兼業を通じたキャリア形成及び企業内での活躍に関する調査研究事業報告書
従業員の収入が増えることでモチベーションが上がり、パフォーマンスが向上するため、自社にとっても良い影響を期待できます。
また、他の回答では、「定着率の向上」や「従業員のスキル向上や能力開発に繋がった」という回答もあり、自社社員の副業によるメリットを感じている企業が多いことが分かります。
それでは、デザイナーに注目すると、副業を認めた場合のメリットは一体どのようなものが考えられるでしょう?
デザイナーとしてのスキルアップが見込める
デザイナーが副業を行うことで様々な経験を積むことができるため、スキルアップが見込めます。
ある程度クライアントや制作傾向が決まっている自社の制作物だけでなく、個人で様々な企業から仕事を請けることで、新しいスキルやマルチスキルを身に付けられる可能性があります。
社外で新鮮な刺激を受けることで、デザイナーとしての視野が広がり、引き出しを増やすことができます。また、社内だけでは機会がなく経験できなかったポジションを副業で経験することができるかもしれません。
結果、デザイナーの成長スピードがより早まり、強みが広がることが期待できます。
デザイナーのモチベーションアップと離職率の低下
もう一つの大きなメリットとして、『モチベーションアップ』があります。
先述の通り、厚生労働省のデータでは副業を認めた企業のメリットとして「従業員のモチベーションが向上した」という回答が最多となっています。実際に企業側が従業員のモチベーションが上がったと感じるほど、目に見えた変化があったことがわかります。
また、2005年に離職率28%だったITベンチャーの「サイボウズ」は、副業解禁などの変革により社員のワークスタイルを柔軟にしたことで、数年間のうちに離職率を4%にまで下げることに成功しました。2016年に社員の副業を解禁したロート製薬も、「社員のダイバーシティ」を掲げています。
参考:サイボウズにおける 副業(複業)の推進事例
つまり、副業によって得られるメリットは単なるスキル面だけではなく、定着率の向上など、人材面でも大きなものであると言えます。特に、優秀なデザイナーは人材確保が難しい職種です。自社で活躍するデザイナーの定着を促す意味でも、副業を認めることは重要かもしれません。
副業を認めた場合のデメリット
データでみる、副業を認めた場合のデメリット
それでは反対に、副業を認めた場合にはどんなデメリットがあるでしょう?

引用:厚生労働省 副業・兼業を通じたキャリア形成及び企業内での活躍に関する調査研究事業報告書
厚生労働省のデータによれば、副業を認めた場合の課題として「労働時間の管理・把握ができない」「本業に支障が出る」という回答が上位しています。
また、『副業・兼業を許可しない理由』の調査では、「過重労働となり、本業に支障をきたすため」が最も多く、次に多いのが「労働時間の管理・把握が困難になる」という回答でした。
つまり、実際に副業を許可した場合のデメリットと、副業を許可していない企業にとって懸念点となっている理由の多くが「労働時間の把握の困難」と「本業への支障」で一致する結果となりました。
これは、デザイナー職にフォーカスした場合も同様のデメリットが考えられます。
本業へ支障が出る可能性がある
最も可能性が高いのが、デザイナーがしっかりと本業を第一にできるかどうかです。
特に、スキルが低い新人や社内でも自立できていない社員が副業に手を出すと、「夜遅くまで作業→寝不足→本業でミスや抜け漏れが多くなる」という悪循環に陥り、本業のクライアントに迷惑をかけたり周囲の社員から反感を買ったりする可能性があります。
本業が疎かになるという、元も子もない状況になる危険があります。最悪の場合、体調不良や社内の人間関係などにより、退職してしまうこともあるでしょう。
情報漏洩の危険性
さらに、情報管理の教育が徹底できていなければ、社外秘の情報を外部に漏らされて大きなダメージを負う心配もあります。
「間違えて、副業のクライアントに本業で作成したデザインデータを送ってしまった」などは、クリエイティブ職では起こりがちなミスです。
結果、社外秘のプロジェクトが漏れてしまうなど、副業を認めなかった場合には生じなかった損害が発生する可能性があります。
副業を禁止した場合のメリット
リスクの回避
副業の申し出を断ることで得られる最大のメリットは、『リスクの回避』です。
先述の、社員の過労のリスクや、情報漏洩などのリスクを回避できることは、企業にとって大きなメリットです。
また、元来残業時間や休日出社の可能性が高いクリエイティブ業界では、労働時間などのセルフマネジメント部分への懸念が大きい企業は多いはず。
そういった観点から、副業を禁止することで、デザイナーには自社の仕事に集中してもらった方が安心という考え方もあります。
副業を禁止した場合のデメリット
モチベーションの低下
これも基本的には「副業を認めた場合のメリット」の裏返しです。
やはり、なんといっても社員デザイナーのモチベーションが下がることは大問題です。
デザイナー本人の副業の申し出を否定することが、直接的なモチベーション低下に繋がることももちろん問題です。
しかし、それ以上に、デザイナーの一般的な転職理由の上位に出てくる「様々なジャンル・媒体の制作物を作りたくなったから」「スキルアップしたいから」という問題は、実はこの「モチベーションが下がる」と同義と言えます。
特に、商品・サービスが大きく変化しない事業会社や、代理店・制作会社であっても得意商材・クライアントが固定化傾向にある企業などは、マンネリ感を感じてしまう、新しい経験は積めない、といった不満に繋がりやすく、モチベーションの低下の要因となります。
さらに副業も禁止となれば、職場を変えることでしか、デザイナーは満足しなくなってしまうでしょう。
採用が難航する
もう一点、今後デメリットとなりかねないことがあります。それが、デザイナー採用が難しくなるということです。
最近は、既存の就業ルールや雇用形態に縛られないパラレルキャリアを選ぶ優秀な人材が増えてきています。その背景に、リクルートや日産、富士通、花王、ロート製薬など、大手企業が次々と副業を認めていることがあげられます。特殊な取り組みですが、「副業必須」としている企業も出てきているそうです。
このような時代の流れの中で、「副業OK」と「副業NG」の会社間での採用力・雇用力の差が出てくるのはごく自然と言えます。
デザイナーは様々な経験を積むチャンスがある「副業OK」の企業を選ぶ可能性が高く、いくら募集要項が良くても、副業が禁止されているというだけで応募が集まらない可能性もあります。
そのため、企業側も時代の流れに乗り、柔軟に社員の働き方を認める必要があるでしょう。
デザイナーの副業が、自社の成長に繋がる可能性は大きい
副業を認める企業は徐々に増えつつあります。
副業は社員のスキルアップやモチベーションアップに繋がり、本業の企業の成長を大きく後押ししてくれるでしょう。また、社員の定着率アップなども期待できるため、副業は前向きに検討することをおすすめします。
一方、ワークライフバランスの乱れや、情報漏洩、離職に繋がるなど、リスクが存在するのも事実です。
副業のメリット・デメリットをしっかりと理解した上でルールを定めつつ、デザイナーが副業を活用できる環境を作ることが重要です。
参考資料:厚生労働省『副業・兼業を通じたキャリア形成及び企業内での活躍に関する調査研究事業報告書』
