お仕事図鑑

《お仕事図鑑vol.10-2》AIプロンプトディレクターとはどんな仕事?最前線のクリエイターに聞いてみた【第2回:リアルな映像を作るためのこだわりとは】

こんにちは!クリエイターワークス研究所(CWL)です。
国内外でAIプロンプトディレクターAI Filmmakerとして活躍する、木之村美穂さん。前回は、国内外のAIへの注目度や、生成AIの現状、AIの普及により変化するクリエイティブ業界についてお話を伺いました。

連載第2回目となる今回は、AIプロンプトディレクターAI Filmmakerという職業について具体的に伺うと同時に、木之村さんがAIを仕事にするまでのストーリーを教えていただきます!

木之村美穂(Miho Kinomura)さん

STUDIO D.O.G GK 代表
クリエイティブディレクター/ 映像ディレクター/ AI Filmmaker
元ファッションデザイナー Los Angelesを拠点に、広告制作会社の代表として、世界のトップクリエーター達とファッション広告や映像制作に関わる。

2022年からWeb 3.0デジタルメディアに特化した新プロジェクトNFFT(New Future AI Fashion Movie)のAI x Fashion 映像イベントのファウンダーとして、世界で活躍するAI Creator 達を集めたイベントを開催。自らもAI Filmmakerとして、海外のAIフィルムコンテストに参加しAIショートフィルムを海外で発表。2023年12月に発表したPARCO Happy Holidays AI 広告キャンペーンのクリエイティブディレクターとして、日本初のAI 広告をディレクション制作。
Generative AI 関連イベントやセミナーにはアバター miomio として数多く登壇。

実際のところ何をしている?AIプロンプトディレクターAI Filmmakerの仕事内容

ーー前回のお話で、AIプロンプトディレクターのニーズが高まっているとおっしゃっていました。木之村さんご自身も、AIプロンプトディレクターAI Filmmakerという肩書きで活動されていますが、どんなお仕事なんでしょうか?

生成AIは「プロンプト」と呼ばれる指示文に従って、画像や文章、音楽を生成します。AIプロンプトディレクターは一言で言えば、このプロンプトを使ってクリエイティブを生成したり、質を高める仕事です。

ーーAIプロンプトディレクターは、クリエイティブのどの領域を担当するのでしょうか?

クリエイターにもよりますが、私の場合はほぼすべての役割を担当します。

たとえば、食品の動画広告を作るとしますよね。前回もお話しした通り、通常の流れでは、クライアントである食品メーカーからオリエンを受けて、クリリティブディレクター・プランナーがクリエイティブのコンセプトを設計。コピーライターがコピーを書いて、映像ディレクターが映像の全体像を考え、制作プロダクションのプロデューサーが撮影全体をまとめ、モデルが入る場合はモデルをキャスティングし、ヘアーメイク、スタイリストが入り、カメラマンが撮影して、ポストプロダクションで編集スタッフが映像を編集してカラコレ(撮影した映像の色を補正する作業)して仕上げますが、生成AIを使えばこれらの役割はすべてひとりでこなすことができますから。

「AIを使って自分とブレスト」。企画、プレゼンから生成AIを活用

ーー全てのクリエイティブとディレクションを兼任するのですね。実際にどのような作業をするのか教えてください。

第1段階は、コンセプトの言語化です。まずは自分の頭の中で基本の企画を考えます、ChatGPTのようにテキスト生成に特化したAIツールを使って、自分が最初に考えるアイデアをベースに、基本コンセプトの叩き台を作るんです。このとき、素材やターゲットに関する情報を入れてコンセプトの切り口を広げたり、さらに追加した自分のアイデアを指示に加えたりして、また生成する、ということを繰り返し、コンセプトをブラッシュアップします。

ーーブレスト(複数人でのアイデア出し)のようなイメージでしょうか。

まさに、自分自身とブレストするようなイメージです。コンセプトが決まったら、第二段階です。商品のコピーライティングをAIに依頼します。

ーーコピーを作成する際はどのように指示を出していますか?

私の場合は、「英語のキャッチコピーを50文字以内で30個ずつ」というように、文字数まで具体的にリクエストします。もちろん、生成された案はそのまま使うのではなく、30個のうち出来のいい10個ほどを選んでまたブラッシュアップします。

ーービジュアル面はどのように構築していくのでしょうか?

広告を作る際は、いきなり映像を作り始めるのではなく、まずクライアントに企画と完成イメージを伝えなければいけませんよね。そこで第3段階に入ります。プレゼンボードと呼ばれる企画を具体的に見せるビジュアルのコラージュのようなものを作るんです。

ここで活用するのが画像生成AIです。頭の中にあるイメージをどんどんアウトプットしていき、大量の素材を生成し、用意して自分の手でレイアウトします。一度完成したらおしまいではなく、クライアントの意見も取り入れながら何度も調整を繰り返します。

ーーかなり作り込むのですね。

実際の映像に使う物ではありませんが、膨大な枚数を出しますね。クライアントのイメージと実際の制作物に齟齬が出ては困るので、しっかりと作り込むようにしています。

ちなみに、動画の場合はプレゼンボードではなく、広告制作などで使用している、時系列やストーリーの概要がわかるストーリーボードと呼ばれるものをAIで作成します。

ーープレゼンボードやストーリーボードを作成される際の画像は、どんなツールを使って生成していますか?

難しい質問です。この2、3ヵ月でも新しいツールがどんどん登場しているので、色々試しながら用途によって細かく使い分けていますね。

メインで使用しているのは、プロンプト(指示文)を入れて画像を生成する「 Midjourney 」「 Stable Diffusion 」、 画像から動画を生成するソフトでは、「Runway Gen3 」「 Pika Labs 」「 Luma Dream Machine 」あたりでしょうか。

▼Runway 『GEN:48』 Competition Submission 2024 木之村さん出品作品
Runway Gen 2/ Gen3 を使用して、お題を元に48時間以内に4分以内の映像作品を作り出すコンテスト

リアルな映像を作るための、緻密な編集 ✖️ プロンプト設計

ーープレゼン段階からかなりの手間と時間をかけられているのですね。実際に広告で使用する動画の制作も、動画生成AIでプロンプトを調整していくのでしょうか?

プロンプトで静止画やムービーを生成するところまでは他のフェーズと同じですが、実際に広告で使用する動画を作る際は、何千枚もの素材を生成して、必要な瞬間だけを切り取って編集でつないでいます。

具体的には、動画全体の長さを計算して、カットごとにファイルを作り、必要な秒数分だけ選りすぐった素材を入れて、編集でつないでいますね。

ーー大量に生成した素材を細かく切り出すのはなぜでしょう。

今のAIツールでは、10秒のムービーを生成したとしても、生成された動画の中で使える箇所は、人物の表情や動きに違和感がない瞬間はほんのわずかな瞬間だけ。

ーーただ生成するだけでなく、加工や編集によってリアルな映像が生まれているのですね!

もちろん、AIらしい奇妙さや違和感を追求するクリエイターも存在します。この辺の考え方は制作者によって違いますね。私の場合はリアルで自然なAI動画を目指しているので、多くの素材を集めた上で0.05秒単位で自然な瞬間だけを抜き出す今の方法がベストなんです。

ーープロンプトの設計で意識されていることはありますか?

膨大な量の情報を、緻密に指示しています。部屋の質感、小物、カメラワーク。人物も同様に、髪の色、長さ、ファンデーションの色や質感、衣装のしわ、ライトの当たり方など、全ての情報をプロンプトで指示して1枚ずつ動画の元になる素材画像を作っています。

使っているのはAIですが、動画撮影現場のディレクションにも似ていますね。そういう意味では、過去のキャリアで詰んだスキルや勘が今の仕事に生きていると思います。

デザイナーからプロデューサーへ転身も、クリエイティブへの思いに動かされ……

ーー木之村さんはファッションデザイナー出身と伺っています。デザイナーからAIプロンプトディレクターへとキャリアチェンジするまでに、どのような経緯があったのでしょうか?

もともとは日本でファッションデザインの基礎を学び、有名ブランドで洋服のデザインに携わっていましたが、ファッションだけじゃなく写真も好きだったことから、単身ニューヨークに飛んで有名フォトグラファーのレップエージェンシーを立ち上げました。

ーー日本のファッションデザイナーからニューヨークで起業とは、すごい変化ですね!その当時は、どのような案件に関わっていたのですか?

ファッションや美容系のお仕事が多かったです。当時アメリカでは映像制作プロダクションの勢いがあったこともあり、日本の大手化粧品会社のコマーシャルを担当することもありました。そのうちだんだんと、プロダクション化していき、気づいたらプロダクションのプロデューサーという立ち位置に……。会社としては順調で多くの広告の仕事をアメリカを含めたヨーロッパやアジアで撮影をしていました。

プロデューサーを長く経験していましたが、クリエイティブに戻りたい気持ちが多く悩んでいた時に、広告の撮影現場でご一緒したディレクターの方に「ディレクターになるのはどうしたらいいの?」と聞いたんです。するとその方が、「友達と一緒に撮りたいものを撮って、作品を作ればいいんだよ」と言ってくださって。

ーーその言葉がきっかけでディレクターに転身されたのですね。

決断は早かったですね。会社を縮小して私1人になって、映像ディレクターとして再出発しました。

ーー大胆な決断ですね!その後、どのように映像ディレクターとして実績を積んだのでしょう。

プロデューサーから映像ディレクターになったと言っても、経験値ゼロですから、ふつうであれば仕事は取れません。

でも、つながりのあったミュージシャンの方が、私の映像ディレクター転向を知ってMVを作ってみないかと言ってくださり、せっかくだからと挑戦したんです。すると、その作品がMTVやスペースシャワーなど、MV専門チャンネルで話題になり、ディレクターとして名前が知られるように。そこから私の映像ディレクター人生がスタートしました。

これが、会社を縮小してから1年後のことです。その後は、もともと広告でお世話になっていた企業や代理店の方から映像のディレクションをやらせてもらうことが増えていきました。

▼木之村さんが主催するNFFT2025_SS AI Fashion Movie 展(画像をクリックするとNFFT Official Web Siteにアクセスします)

コミュニティがきっかけでAIに出会い、「面白そう」からクリエイターへ。

ーーディレクターとして順風満帆なスタートですが、その後、どのような経緯でAI分野に特化するようになったのでしょうか?

2021年にWEB3が話題になり、クリエイティブ業界でも、ブロックチェーンやNFTで作品を販売する人が増えました。契約しているフォトグラファーの作品をNFT上で販売する人も現れて具体的な対処が必要になり、当時流行っていたクラブハウスというアプリでNFTについて語るコミュニティに入って、勉強を始めたんです。

そのコミュニティが最新テクノロジーの話をする場に発展し、AI業界の有名な人を呼ぶようになったのが2022年ごろ。AIを使った作品を作る人がちらほら出始め、SNSで作品をみていて「面白そう」と思ったのをきっかけに自分もハマり始めました。

そこから一気に世界のデジタルクリエイターとつながって、その年には展覧会を企画していました。2023年にはPARCOの広告の仕事が決まり、日本でも初めてのAI 広告キャンペーンを手がけ、クリエイティブディレクター・AIプロンプトディレクターとして活動するようになっていましたね。

ちなみに、AIプロンプトディレクターをはじめるきっかけになったWeb3コミュニティーは現在でも継続していて、毎週土曜日の朝10時から、「Clubhouseクリエイティブラウンジ」という名前でゲストを呼んで放送しています。

ーーデザイナーからプロデューサー、そしてディレクターへと転身され、WEB3からの流れでAIに興味を持ち、AIプロンプトディレクターとして活躍する現在につながっているのですね!

仕事が元でいろいろな御縁にもつながっています。2024年10月には渋谷パルコでNFFT2025_SS AI Fashion Movie 展 ( New Future AI Fashion Technology ) を開催しました。

11月2日には イベントに参加したクリエーターの中から、広告・映像業界のプロ3名が集まり、なぜ生成AI Movie に挑戦するのか?どんなところが面白いのか?のトークセッションも行う予定です。

今思えば、ファッションとビューティーの知見、1本の映像を作り上げるまでの構成力やノウハウなど、過去の自分のキャリアや経験が、AIプロンプトディレクターという仕事に生きているなと感じます。

ーーAIプロンプトディレクターにたどり着くまでの多彩な経験値が、木之村さんの作品のクオリティに現れていますね!

編集後記

動画生成AIの存在は知っていても、生成された動画からどのようにハイクオリティな作品を創り上げるのか?そんな疑問に詳細に答えてくださった木之村さん。「そんなことまで教えてくれるの!?」と思ってしまうほど、作品作りの裏の裏まで語ってくださいました。これから生成AIで作品を作ってみたい!という方にも参考にしていただけるのではないでしょうか。次回は、多くの人が気になっている、AIと法律に関するお話を伺います!