こんにちは。クリエイターワークス研究所(CWL)のまるこです。
今回は、多数のメディアやウェビナーに引っ張りだこのクリエイター、nanocolor代表の川端康介さんへのインタビュー連載第2回目です。
今回は、川端さんが日々の仕事の中で感じている、クリエイターとして長く仕事を続けるために必要なスタンスについてのお話です。
結構悩んでいる方も多いテーマだと思いますので、ぜひ参考にしてください。

制作会社を立ち上げた理由とは?
― まるこ
弊社ユウクリの登録クリエイターさんの中にもフリーランスになる方や起業される方も多いのですが、「その後軌道に乗せたり安定させることが難しい…」と相談にいらっしゃる場合も少なくないんです。
そういう状況を見ると、起業というのはやはりすごく大変なことだと感じます。
川端さんが起業前後にご苦労されたことなど、これから起業しようとかフリーランスになろうと考えている方に、何かアドバイスをいただけたらと思います。
― 川端さん
僕は起業前に、こういう会社にしようとか、世の中に貢献しようっていう熱い原動力が一切なかったんですよ。
自分の会社を作れば、毎朝決まった時間に出社しなくて良いし、上司や社長に怒られることもないし、仕事で成功しても失敗しても、良いも悪いも全部自分で対応できるのがいいと思っていたんです。
― まるこ
熱い思いがなかったとは(笑)。
良いも悪いも全部自分でできるのがいい…そう思うきっかけがあったのでしょうか?
― 川端さん
前職のときは僕がヘマをしても、お客さんに謝りに行ったり怒られたりするのは上司や社長で、僕がいくら謝ったとして、「君はいいから、いいから」とか言われてしまったりすることに耐えられなかったんですよ。僕自身ではどうしようもできないことの領域がすごく多いなと思っていて。
そういう状態だと、たとえ売上が上がっても心の底から自分事として喜べなかったりして、どこかで冷めてるんですよね。だって売上が上がっても、僕の給料変わんないでしょ、みたいなね。
― まるこ
なるほど。
― 川端さん

このままでは自分がやったこと、アクション全部が不完全燃焼だなっていう思いがあったので、全部自分でという、今思うと本当に甘ったれた考えがあったんですよ。それに毎朝出社しなくていいとか(笑)。
もし会社を立ち上げてから仕事がなくて1ヶ月全部働かなくても手元のお金で一旦生活ができそうだし、それならいいか、みたいな感じで立ち上げたんですよ。
会社の経営がどういうものかも全然分からないし、同業のツテもなく、営業もしたことがないのに。
事業継続のカギは、SEOや広告じゃなく“人づて戦略”
― まるこ
「前職のツテで仕事をもらえるからフリーランスになる」という人は割と多いと思いますが、そういうものがなく立ち上げるのは、すごいですね!
― 川端さん
初期のnanocolorはECと制作の2本柱だったので、ECの方の算段はついてました。どういうものをどういう風に売れば、これくらいの売上になるというのは大体分かっていたので、そういう商品を仕入れて、立ち上げるまでの資金さえあればいけるなっていう感じでした。
ただ、制作に関してはツテは一切なかったですね。制作会社経験のない僕が制作会社をゼロから立ち上げるという。
― まるこ
最初は制作費の値段の付け方もわからなかったそうですね。
― 川端さん
1週間ぐらい綿密な打ち合わせをして、こういうコピーがいいとか、こういうビジュアルがいいとかメチャメチャやって、5,000円でしたね。最初はそれが安いか高いかもすらも分かってなくて。
自分で金額を提示したものに対して、制作会社としてお金がもらえたっていうモチベーションの方が高くて。「自分に5,000円の価値が付いた。これで自分もデザイナーになったんだ!」と初めて思えたので、それで全然良かったですね。
― まるこ
素敵なエピソードですね。ではそれを皮切りに制作に関しては、低価格であったとしても実績をつけるために依頼に応えていったという感じでしょうか?
― 川端さん
そうですね。僕は営業というのを積極的にしたことがなくて、「紹介してくれよ」とか、「他に仕事くれませんか」と言うことがすごく嫌だったんですよ。
自分の売りが何なのかも分かってないし、ちゃんと依頼に応えられるかどうかも分からないのに、お金欲しさにそういうことを言うのが。
ただ、当時自社のECがある程度軌道に乗りつつあって、そういう実績を持っている会社が制作の仕事もやっているという見せ方をすると、「そのノウハウを元に作りますよ」というアプローチができるとは思っていました。
なので、ECサイトとは別に自社サイトを作って、その自社サイトで「私たちはこういうことをやっていて、制作もやりますよ」という見せ方をして、そこにリスティング広告をかけてましたね。
― まるこ
そこは戦略的に、広告でアピールすると。
― 川端さん
半年間くらいリスティング広告をかけてたんですけども、全然反応は良くなかったですね(笑)。
当時楽天などのサイトに、「激安でECショップをオープンさせます」とか「Webページ作りますよ」ていう会社の広告が結構多くて、うちは価格勝負で負けていました。
そういう状況の中で、自分のやりたいことは何なのかという原点に立ち戻って考えてみたときに、「ちゃんと売れる提案をしなきゃいけない」と思って。
そうなると、今までの値段と時間ではパフォーマンスが発揮できないなと思い始めて、値段を上げていかなきゃと。
例えばさっきの5,000円を10万円に上げていく時に、量より質を意識しますよね。
5,000円の仕事を20件やるんじゃなくて、1案件、1ページを10万円にするわけですから。
― まるこ
質ですね、思いっきり。
― 川端さん

質にこだわらなきゃいけないと思った時に、お客さんの依頼、課題に対して「こういうデザイン・構成・ビジュアルが必要なんだ」というものを徹底的に全部洗い出そうと思って。それを理論的に説明するように心掛け始めたのが、それくらいの時期ですね。
そもそも「10万円です」と言う前に、お客さんに「こちらからはこういう提案をします」と伝えて、「ぜひお願いします」とコンセンサスを得た上で作る。そういうのを繰り返していきました。
― まるこ
そこが今のスタイルにつながる転機だったんでしょうか。
― 川端さん
そうですね。そういうページ作りをしているうちに、5,000円の仕事ではなく、10万円の仕事が月に何本か生まれるようになってきて。そのタイミングでECサイトは辞めようと決断したんです。
ECサイトをやめると会社の売り上げは一気に下がるんですが、自分にとってはそれでいいと思っていて。
そこから少しして、広告代理店さんからお問い合わせいただいたりするようになってきたんです。
それは「広告代理店で噂になる仕事をする」ということを、僕自身が意識的に心掛けていたからかも知れません。
― まるこ
「広告代理店で噂になる」というのは、具体的にどういうことをされたのですか?
― 川端さん
僕のスキルが世の中の制作のレベルと比べて全然足りていないのであれば、噂になることもないとは思っていましたが、それなりのスキルがあって、なおかつ「この値段でここまでやってくれるんですか!」と思える内容と、フレキシブルに話ができる僕のようなフロントがいる会社っていう風に認知してもらえるようになればいいなと思っていて。
よくお取引させてもらっていた代理店さんの案件は極力引き受けて、代理店さんの内部、あるいはその代理店に頼んでいる事業主さんの間で「どこか良い制作会社ない?」って話になったとき、「nanocolorという会社があるよ」と言われるような実績を積み上げていく。
SEOとか広告ではなくて、人が起点で会社の名前が広がっていくことを意識して動くようにしていたら、案件数が一気に増え出しましたね。
― まるこ
人づてにnanocolorさんが手掛けた仕事がどんどん噂になっていくことを目指すというのは、質にこだわらないとできませんよね。
― 川端さん
広告の文脈で話が通じるとか、デザインの質が良いとか、「これ、どこの会社が作ったの?」と言われる仕上がりを目指すとか、そういうコミュニケーションとアウトプット両方の満足度が高いことが噂になったらいいなと。
LPや単品通販に特化しようと思ったのもそのための狙いの1つで、そうすると何を作ればいいのかが絞り込めるので、その部分の情報や知見が蓄積しやすい状況になると思っていましたね。
― まるこ
やることを絞り込んで、より濃いターゲットを得ていくという戦略を取られたんですね。
起業当初は仕事量が必要だった部分も、仕事の質や人に対するアプローチにこだわったことで、事業継続の道が開けていったという感じでしょうか。
― 川端さん
そうですね。でもこういう戦略の手法は、フリーランスと起業家では全然違うと思うんですよ。
よく「稼ぐ」という言い方をしますが、自分が困らない生活費を得ることを稼ぐというのか、会社法人としての目標としている利益額を得ること稼ぐというのかによって変わると思うんですよね。
僕自身は会社をすごく大きくしたいという欲望が全然なくて、関わる人たちが困らないくらいの利益があるといいなぐらいしか思ってないタイプなので、経営者としては本当に下の下だなと思ってます。
― まるこ
そんなことはないと思いますが…。
― 川端さん
ただ、今後の展望的な部分で言うと、実現したいことややりたいことがあると、会社の規模は大きくせざるを得なくなっていくというのはあり得ると思います。
特に会社を大きくすることや人を増やすことが目的ではないけれど、会社として目指したいものを実現するには人が必要という価値観があって、そこがいわゆる投資になっていくと思うんですけども。
これまではそこまで大それた野望が僕にはなかったですし、悪い時でも売上ゼロとかお客さんが全く来ないということもなかったので、地道にやってきたから継続できているかなと。
― なるほど。確かにリスクを追い過ぎないことは、健全な経営のポイントだと思います。
