
最近のSNSなどで「好きな仕事を好きな時間にできる」などとうたい、フリーランスを持ち上げる言説が目立ちます。「社畜」という言葉も未だにあり「脱・会社員」を薦める記事などもあります。しかし、フリーランスは本当に「好きな仕事を好きな時間にできる」のでしょうか? 今回、現役フリーランスの筆者の体験を基に、巷で言われる「フリーランスのメリット」の現実を解説していきます。
目次
■フリーランスは、好きな仕事を好きな時間に「できません」
さっそく否定からのお話で恐縮ですが、フリーランスが好きな仕事を好きな時間にできないのは、むしろ「常識」と言っても過言ではありません。
自分がやりたい仕事に対して「仕事をさせてください」と営業をかける場合は別として、通常、案件の内容は依頼ごとによって大きく異なってきます。例えば「アーティストのCDジャケットや物販のデザインがしたいな」と思っていたとしても、都合よく、その仕事がいつも降ってくることはまずありません。
また、フリー如何に関わらず仕事には「納期」というものがあります。そして多くの場合、納期とはクライアントの「都合次第」で決まります。
このコラムに関しても、当然ながら締切があり、筆者の好きな時間に望んで書いたものではありません。納期に沿って、それを逆算した都合で書いているのです。
場合によっては、そこに「クライアントの都合」で別の仕事が重なってしまうこともあります。このようにフリーランスが、好きな仕事を好きな時間に行うことは難しいのです。
■フリーランスは人間関係に悩まない?
「面倒な上司や同僚がいないのでフリーランスは気楽」と言ったたことも、よく挙げられる「メリット」の一つですが、会社員と同じく、もしくはそれ以上に人間関係には悩みますし、気をつけなければいけないことです。
フリーランスなんだから「嫌な相手なら付き合わなければよい」と思われるかもしれません。しかし、それは「潤沢」な案件があって、新規依頼も多いクリエイターのみに当てはまる話です。
現実では、例えクライアントや担当者と「ソリが合わない」、あるいは「無理難題を押し付ける」相手であったとしても、収入が不安定なフリーランスとしての状況ならば「請けざるを得ない」ケースが頻発します。
そうでなくとも、フリーランスは人脈が命。嫌いな相手であっても「いい顔」をしておかなければいけないこともあります。これは社会人としての人付き合いでは「当たり前」のことかもしれませんが、フリーランスにも同様のことが言えます。
つまり、フリーランスと言えど人間関係には悩まされますし、社会人と同等、もしくはそれ以上に人付き合いに気をつけていかなければ、それがそのまま直接、収入に響いてしまうのです。
■フリーランスはどこでも仕事できます。が『コスト』もかかります
「フリーランスは働く場所を選ばず、どこでも仕事できることがメリット」と言ったような言説もよく見られます。確かに、家だろうがカフェだろうが旅行先だろうが、どこでも仕事はできますが、これに関する「デメリット」には一切触れられていないことがほとんどです。
そのデメリットの一つは「コスト」です。
例えば、近所のスターバックスで作業をするとしましょう。カフェで仕事をするならば、交通費やコーヒー代がかかります。滞在中にスターバックスラテのトールを2杯飲むとすると、約800円かかります。月に10日通うと仮定すれば月あたり8,000円の出費になります。
1日に8,000円分の仕事をしたとしたら、稼いだ中の10%はコーヒー代となる計算です。収入の10%がコーヒー代として経費計上される仕事は、実際のところ、成り立つのかどうかという部分でも怪しいところです。
かなり雑な例を挙げてみましたが、「どこででも仕事をする」ということは、このように大なり小なり問わずコストがかかるものなのです。また、自宅作業としても光熱費やAdobe CCなどの各種アプリケーション代、プロバイダの月額料金や電話代などの通信費が「コスト」としてかかります。
つまり、会社員なら会社が当たり前のように提供してくれるインフラや福利厚生などは、すべて自身が「コスト」として支払わなければなりません。確かにフリーランスはどこでも仕事ができますが、影に隠れた(隠された)コストというデメリットからは逃れることは難しいでしょう。
■他にもいろいろ。「フリーランスは○○できません」
巷で言われるフリーランスのメリットは、上述で挙げた例以外にも他にもいろいろとあります。大まかではありますが、いくつかの意見をピックアップして解説していきましょう。
まず、「スキルアップできる」と言った意見。これは会社勤めだろうがフリーランスだろうが、つまるところは『本人のやる気』次第です。個人的には、むしろ会社勤めの方が出退勤時間がだいたい決まっているので、スキルアップの時間を計画しやすいのではないかとさえ思ってしまいます。
さらに「人脈が広がる。会社員時代には出会えない人との出会い」と言うのも、フリーランス「特有のメリット」というのは無理があると言えるでしょう。こちらも同様に「本人が行動を起こすか」どうかで決まってくるからです。
他にも「稼いだらそれに比例して収入がアップする」と言った意見も見られます。確かに稼いだら稼いだだけ収入はもちろんアップします。しかし、単純に仕事量を増やすだけでは、時間の限界と身体が持たなくなるので、仕事量を減らしながら(質はもちろん上げて)、単価を上げる技術や交渉スキルが求められてきます。
他にもたくさんありキリがないくらいですが、SNSなどで煽られているほどフリーランスは気楽ではありませんし、自分の腕一本で生きていくというのは、当たり前のようにかなりのリスクが伴ってくるのは間違いありません。
フリーランスは不自由で恐ろしいように書いてしまいましたが、そうは言っても筆者自身としては「気に入っている働き方」です。自分でスケジュール管理をきちんとできさえすれば、起きる時間も寝る時間も自由ですし、納期の範囲内であれば好きな時間に仕事をしても自分のさじ加減一つで決められる話なのです。
■まとめ
ネット上に溢れている甘言を真に受け、安直な気持ちでフリーランスとして活動してしまうと「こんなはずじゃなかった」と後悔することがあるかもしれません。
もし、これからフリーランスになろうと考えている人や独立を考えている人においては、このように、現在とフリーランスになった場合のメリットとデメリットをしっかり把握して、天秤にかけた上で行動しても遅くはない話です。