
「音楽を聴くとクリエイティビティが刺激される」、「作業効率がUPする」と聞きますが、実際はどうでしょうか。筆者はグラフィックデザイナー・ライターをしていますが、作業中にBGMをかけますし、知人の多くも「仕事をしながら音楽を聴く」と言います。そこで今回は「音楽を聞くと、想像力や作業効率はUPするのか?」をテーマに「音楽とクリエイティブ」の関係を探ってみようと思います。
目次
■仕事中に音楽を聴く人は、5人に1人の割合
「株式会社USEN」が行った調査によると、仕事中「個人で音楽を聴く人は5人に1人」で、音楽を聴く理由として「集中したいから」が1位で68.6%となっています。
また、「周りの人が仕事中にヘッドホンなどで音楽を聴くことに対して、どう思いますか?」という設問については『若いほど肯定的』で、とくにIT関連企業は好意的に受け止めている方が多いそうです。
この調査においては職種がはっきり明かされていませんが、筆者の体感値ですとクリエイティブ系の仕事についている人において、音楽を聴きながら作業をしている人の割合は上記調べを上回ると思っています。試しに周りのクリエイター10人ほどにアンケートをとってみましたが、100%「仕事中に音楽を聴いている」ということでした。
アンケートの分母としては少なく、かつ筆者の周囲には音楽好きが多いため、やや信頼性に欠けるかもしれません。しかし、クリエイティブ系の仕事に従事している人は、音楽を聴きながら仕事をしている人が比較的多いであろうと見積もれるのではないでしょうか。
それとは別に、論を少し補足しましょう。実は、グラフィックやWebデザインはもちろん、映像系や広告関係も含めて、いわゆる『クリエイター』と言われるような職種は音楽と切ってもきれない、関わりが深い関係にあります。
グラフィックデザインであれば、当然、今売れているアルバムのカバーアートを無視することはできませんし、Webデザインでも有名アーティストのホームページ(とくに海外)を見ることなどは、トレンドを追うためにも欠かせません。映像系ならば、最近は質の高いMVが量産されています。
広告系ならば、それこそ上記すべてをカバーする必要があります。
音楽が好きか嫌いかを別に考えても、クリエイターと音楽は密接することが多く、関わりを断つことの方が難しいと言えるでしょう。となれば、やはり作業中に音楽を聴くクリエイターが多いという話は、あながち雑なグルーピングでもなさそうです。
■「作業中に音楽を聴くと、クリエイティビティは上がる?」を聞いてみた
上述のアンケートでは、筆者の知人クリエイターは全員「作業中に音楽を聴く」との回答でしたが、ついでに「作業中に音楽を聴くと、クリエイティビティや作業効率が上がると思うか」といった質問をしてみました。
結果としては、「上がる」人と「そうでもない」人では上がるがやや優勢。番外編として「いつも聴いて作業をしているので上がっているかどうかをそもそも比べられない」との回答もありました。
このなかで「上がる」と回答したクリエイターに、他に「音楽を聴くことによってどのような効果があるか」と聞いたところ、「テンションが上がり、いいものができる」、「自分が集中できるプレイリストがあるので、それを聴きながら作業をするといつもより効率が上がる」、「ラジオなどで知らない音楽を聴いた時にふとアイデアを閃くことが多い」などの回答が得られました。
結論的には、音楽を『スイッチ』的な役割のようなものとして使っている人が多く、音楽を聴くことによって、クリエイティビティや作業効率を上昇させると言えそうですが、現実として「そうでもない」と答えた人がいるのもまた事実。
「効果があるかどうかはその人による」と言ってしまうと元も子もありませんが「まったく効果が得られない」とも断じるのも違っているように思います。
■実際の研究結果などからはどのような結果か紐解く
上記は、筆者の周囲のクリエイターへのラフな聞き取り調査によるものでした。そこから考えると(人によっては)音楽はクリエイティビティや作業効率を上昇させる効果があると言ってもよさそうです。
さらに、いくつかの研究結果を引き合いに同問題について考えてみましょう。例えば、スタンフォード大学が2007年に行った研究によると「音楽は学習能力・集中力を高める」と言う結果が出されています。
また、オランダのラドバウド大学で行われた実験では多少踏み込んで、「幸福な音楽」、「静かな音楽」、「悲しい音楽」、「不安な音楽」、そして「無音」の状態で様々な作業を被験者に課した結果を発表しています。
「幸福な音楽」を聴いたグループに関しては、与えられた情報を基に『新しい発想を生み出す、拡散的思考力を測るテスト』において、明確な優位性が表れたそうです。この実験では曲としては限定的な状況ですが、これらの研究や実験から見ても、やはり音楽がクリエイティビティや作業効率に与える影響は、「少なからずある」と言えます。
しかしながら一方で、セントラル・ランカシャー大学で行われた実験においては「音楽を聴くことで創造力が損なわれる」という結論が出されています。先の実験とまったく逆の結果が出てしまっていますが、「音楽が認識能力に及ぼす影響」については、数十年に渡って研究が続けられています。
人間の脳が編み出す「認識能力」が個々によって異なり未知な領域も多いこと、その上、音楽が心理的に及ぼす効果も含めた関係性を導き出さなければならず、研究の現場でも現在、はっきりとした「結論」が出されていないということが見えてきます。
■自分にとって「音楽」がどの立ち位置にあるか見据える
とは言え、筆者の経験値として結論を言わせていただければ「音楽はクリエイティビティや作業効率を上昇させる力を持っている」と感じています。
実際、テンポのよい音楽をかけているときはスピードが上がりますし、速く手を動かすことで閃くアイデアもありますし、ゆったりとした音楽をかけて考え事をしているときに、創作物の核になる部分を閃くこともあります。そして、それらは確実に『その音楽を聴いていたからこそ出てきた』アイデアなのです。
せっかく「効果」を感じているならば、使わない手はありません。心理的に及ぼす影響や暗示的のようなところもあるように思いますが、スイッチ的な役割で仕事への向き合い方が変わるなら、自己管理の一つと考えても非常に有効な手段と言えるでしょう。
■まとめ
もし、普段音楽を聴かない人で「いいアイデアが出ないな」「作業がはかどらないな」と感じたら、ぜひ好きな音楽を聴いて見て、自分がどう変わるか実験してみるのも面白いかもしれません。研究結果のように有効か無効かはあるかもしれませんが、もしかしたら、あっと驚く閃きを得られたり、思わぬほど作業がはかどることが起こるかもしれません。