
クライアントや仕事仲間との打ち合わせの中で、「○○みたいな方向性で」とか「○○っぽいテイストで」と言った、イメージ共有をすることがあるかと思います。「○○」部分には、例えば、映画の名前やジャンルなどが入ります。しかし予想以上に、自分と相手のイメージがかけ離れてしまうことも。今回は、このイメージの摺り合わせを円滑にするべく、若いクリエイターでも知っておくべき「共通言語」を設定して説明していきます。
目次
■なぜ、若い人も「共通言語を」知っておくべきなのか?
本題の前に。少し補足をしたいと思います。クリエイターとして、例えば「デザイナー」ならデザインの知識だけで仕事ができるわけではありません。打ち合わせの際に、「今回は『ブレード・ランナー』のような近未来のSF的要素を入れていきたい」とクライアントから提案された場合「ブレード・ランナー」を知らなければ、デザインのイメージを思い浮かべることができません。
さらに言えば、原作や原作者について、その周辺のSF作品も知識にストックしておかなければ、イメージの摺り合わせは難しいでしょう。とは言え、すべてのアートや歴史的背景に精通する人などは少数ですから、頻出の共通言語くらいだけは抑えておいた方がベターです。特に、知識の乏しい若いうちは、会話に入れないことすら多々あります。その中で、内容を理解し場合によっては意見もできることは、会社や個人間でも評価に関わってくる問題です。
ちなみに、筆者はグラフィックデザイナー・ライターですが、映画や音楽、それに付随する歴史的背景を使った仕事が得意です。そのため、今回ご紹介する共通言語はそれらに近いものとなり、主にアート系のデザイン向けになりますが方向性の異なる人でも、「知識の蓄積」として一読いただければと思います。
1、ブレード・ランナー(1982年)
上記でも登場した「ブレード・ランナー」は、1982年に公開されたアメリカ映画。監督はリドリー・スコット。原作はフィリップ・K・ディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」ですが、「ヴィジュアル」を作成する現場ならほぼ映画版だと考えて間違いないでしょう。
SFの「代名詞・金字塔」として名高い名作であり、クリエイターなら一度は観ておいた方がよい作品と言えるでしょう。映画版は5バージョンあり、興味がある方はすべて観るのもオススメ。ちなみに、2017年には最新作「ブレード・ランナー2048」も公開されています。また、ブレード・ランナー以前と以後で、デザインの世界は大きく変わりました。打ち合わせなどで「ブレード・ランナーっぽく」と言われた場合、相手がどのくらい精通しているかでイメージが大きく変わりますので、確認を必ずしましょう。
2、パンク(1970年代後半〜)
今やSFと同じくらい広義となっているのが「パンク」。「パンクっぽく」や「パンキッシュに」と言われ、悩んだことがあるかもしれません。というのも、ひとくちにパンクと言っても多種多様だからです。もっとも有名なものとしては「セックス・ピストルズ」関連のデザイン。服装なら「マルコム・マクラレン」・「ヴィヴィアン・ウェストウッド」など、アートワークなら「ジェイミー・リード」が挙げられます。この辺りは実際に見て、画像検索するのが早いでしょう。
さて、「セックス・ピストルズ」や「ザ・クラッシュ」、「ザ・ダムド」は3大パンクバンドと呼ばれますが、これはいわゆるロンドン初期パンク。主に76年〜83年くらいまでのムーブメントです。一方、アメリカでも「ラモーンズ」などを初めとしたニューヨーク・パンクがあり、後年に西海岸パンクなども登場しています。つまり、「パンク」という単語が出た場合は自分の知識のみで処理せず、なるべく地域やバンド名、または色やアイテム、質感などをしっかり確認することで、イメージの差異を防ぐことができます。
3、モッズ(1950後半〜60年代中ごろ)
「パンク」と同様に、誤解されやすいジャンルの一つが「モッズ」。こちらも年代や地域によりかなり細分化されますが、多くは映画「さらば青春の光」のような、ベスパにM51(いわゆるモッズコート)、もしくは細身のモッズスーツ的なイメージで使われます。さらに、その「モッズ」を足がかりに彼らが聴いていたR&Bやソウル・スカなどのファッションや配色センスまで掘り下げていくと、デザインなどの汎用性が高くなります。
また、モッズと反目していた「ロッカーズ」やモッズ文化からの派生「スキンズ」、海を挟んでアメリカで花開いた「ビートニク」や「ヒッピーカルチャー」など、そちらにも知識を広げると、アイデアのストックがグンと増えます。
4、シュルレアリスム(1920年代中ごろ〜)
「シュルレアリスム」は、1924年に「アンドレ・ブルトン」が提唱した思想活動。絵画や文学、写真など、後のアートに大きな影響を与えました。よく「シュール」という言葉が使われますが、この語源が「シュルレアリスム」です。日本語訳だと「非現実的」・「現実離れした」と言ったニュアンスでしょうか。「サルバドール・ダリ」や「マックス・エルンスト」、「ルネ・マグリット」などで検索すると、「シュール」の正しい意味合いが理解できると思います。
ただし、現在のデザインにおいては「シュール」の言葉だけが独り歩きしているきらいもありますので、相手が思う「シュール」のニュアンスを慎重にヒアリングしましょう。主観に大きく左右されやすいだけに、確認を怠ると痛い目を見ます。
5、ストーム・ソーガソン(1970年代ごろ)
「ストーム・ソーガソン」はグラフィックデザイン界、特に音楽界隈の最重要人物です。1968年に「ヒプノシス」と呼ばれるアート集団を率いて、「ピンク・フロイド」や「レッド・ツェッペリン」など、数々の伝説的なアルバム・アートワークを手がけました。1970年代以降のグラフィックデザインやフォトグラフィーも、多くが彼やヒプノシスの影響下にあると言っても過言ではありません。「Storm Thorgerson」や「Hipgnosis」をキーワードにすると、すぐに見慣れたデザインが目に入ってくることでしょう。この用語に関しては、正直なところあまり使われないかもしれません。しかし「デザイン」を生業にする若い人なら、知っておいて絶対に損はありません。
■円滑なイメージの摺り合わせには、どのような提案がベターか?
1920〜80年代以降まで5つの共通言語を紹介しました。関連用語を調べるだけでも、膨大な情報と作品、歴史的背景が登場します。共通言語を活かすべく、より実践的に「円滑なイメージの摺り合わせや提案方法」と、「調べ方」を以下でご紹介しましょう。
まず、摺り合わせや提案方法は上述にもあるように、とにかく「詳細を掘り下げる」ことが重要です。再びSFを例に「SFっぽく」とした場合、自分は「ブレード・ランナー」、しかし相手は「スター・ウォーズ」を想像したらイメージは噛み合いません。この相違を埋めるべく「どんなSFか?」、「ブレード・ランナーやニューロマンサーで描かれる町並みのようなテイストか?」などと話を詰めることで、最終的なアウトプット精度が上げられます。
しかし、知識が乏しい場合はこの会話が不可能となり、それゆえ「共通言語を知っていること」が必要なのです。ですが、即答できない時には検索など駆使し、具体的なイメージ出しでカバー、絶対に知ったかぶりをしないことがコツです。可能ならその場で検索し、クライアントと共有やコミュニケーションを取ることです。
■「共通言語」の調べ方
また、調べ方のちょっとしたコツもご紹介しておきましょう。大前提として、必ず「一次資料」にあたり、図書館やレファレンスサービスで正しい情報を掴むことです。登場したような映画なら、実際の鑑賞が一番ですし、パンクやモッズは画像検索だけでも事足りますが、眺めて終わりではなく、当時の雑誌や写真集などもあたりましょう。できれば、音源も聴いておきたいところです。
項目を調べる際に、よく「Wikipediaは資料にならない」と言われますが「キーワードを拾う」くらいなら役立ちます。特に時間がタイトな場合は、まず「Wikipedia」を一読、関連項目を頭に入れてから調べるとスムーズです。また、海外版も参考にすれば情報精度が高まります。「定義」をある程度理解したら、次はキーワードに関連するものを調べましょう。作品やジャンルは、単体で存在しているわけではありません。取り巻く時代背景や、同時代の作品との影響の受け与えがあります。それらを確認することで、より俯瞰で理解できるのです。
■まとめ
今回、クリエイティブ現場で使われる言葉を「共通言語」と設定し、その解説とイメージ摺り合わせのコツや調べる際のノウハウなどをご紹介してきました。「未知なるものを知り得る」ことは、仕事以外にも知的好奇心を満たしてくれます。知識をどんどん蓄積し、クリエイティブと自分に活かしてみてくださいね。