Web制作においてクライアントから「要望が多い」、あるいは「要求が高いが予算はコンパクト」と言うケースが多々あります。仕事と受け入れてしまっているけれど、気持ちはもやもや、システムチームからはクレームの嵐。そんなシチュエーションもWebディレクターにとっては日常茶飯事。今回はディレクター泣かせの「モンスタークライアント」という妖怪!? を制し仕事をこなすコツを現役Webディレクターがお教えします。
目次
■「コスト意識」のないクライアントとは付き合わない
まず、確認すべきこととしてクライアント窓口である担当者のコスト意識。
何に幾らかかるかまったく理解せず、「予算はこれで、やってほしいことはこれ」と、予算と内容を別立てで提案してくるクライアントは少なくありません。予算は会社のいいなりだけど、「自分が手掛けるにはいいものを」というこの手のタイプは「最もタチが悪い」と言えます。こちら側への敬意もなければ、対等だとも思っていません。欲しいのは自分の手柄のみ。
身も蓋もない話ですが、「コスト意識」のないクライアントとは付き合わないのが一番。
いくら頑張って作業しても感謝はないでしょう。むしろ、少しでもスケジュールが押そうものなら「引き受けたんだから約束は守れ!」と強気な態度を取られてしまいます。「恩を売るつもりで」と言ったような気持ちで受けても相手に通用しません。仮に相手に負い目がある場合は別ですが(それなら我慢してやるしかありませんね)。
毅然とした態度で「大変恐縮ですが、予算と内容が合わないから無理です」と伝えましょう。
気を遣って「厳しいです」のような言葉を使えば、「厳しくても頑張れるよね!」などと言われるので「無理」を使う方が賢明です。そして大切なことは、「提示予算内でできること」と「要求に応える場合の見積もり」、この2つを同時に提出することです。
どちらかで答えが得られない場合は、潔くキャンセル。誰も幸せになれません。
そして、コスト意識のないクライアントから出された折衷案の多くは、「作業中に必ずトラブルが発生」し、これも受け入れるべきではありません。「やるときは2択」です。
■その場での回答は控え、「必ず持ち帰る」重要さ
要望トラブルのほとんどは、「言った言わない、聞いた聞いていない」と言う水掛け論から始まります。
要望が「モンスター級」であった場合、メールであろうと対面の打合わせであろうとその場で回答せずに持ち帰って、必ず「こちらから書面にして」送りましょう。
対面や電話などの場合、「要望は承りました。納期や予算を含め、変更があるかどうか現場に確認しすぐにご返答いたします」として「すぐに要望を箇条書き」にし、間違いがないかどうかのメールを送って返事をもらうのです。メールで要望追加の場合にも、折り返しで「~ということですね。確認します」と即答は控えます。
この作業は、クライアントに「Webディレクターは大切に扱わなければいけない伝達係」という意識を植え付けるのにも効果的。直接システムスタッフに説明したくとも、知識がないからできない。その橋渡しをするのがWebディレクターであるということを忘れられがちです。
そして、返答は24時間以内が原則。それ以上の場合は、24時間以内にいつ返事をするかをメールで必ず連絡しておきます。「24時間以内に返事」、「返事が難しければ進捗を伝える」のは、待っているクライアントをイラつかせない方法の一つです。
筆者はかつて、あまりに不条理なことをゴリゴリ言ってくるクライアントを直接、「エンジニアのトップと話をさせた」ことがあります。
エンジニアあるあるですが、彼らはコミュニケーション能力が一般人と違う方向にある事が多く、乱暴にいうと「話にならない」ことも多々あります。その時はまさにそれで、激高のクライアントはエンジニアに「全否定」されて一気にシュンとなり、以降は筆者に信頼を寄せてくれるようになったことがあります。
Webディレクターの中には、トップダウンで仕事をさせているとクライアントに思われることが重要と勘違いし、「わかりました! すぐやらせます!」という人もいますが、システムチームと円滑なコミュニケーションが取れていることこそが「優秀の証」なのです。
■「とりあえず、作ってみて~」にも予算をつけることを忘れない
制作素人のクライアントが「とりあえず2~3、候補を作って」と言う時があります。弱小Webディレクターは「わかりました!」とすぐに返事をしがちですが、これは「悪しき風習」として、平成が終わる前に消滅させるべきことです。
ご存知の方もいるかもしれませんが、いわゆる“大御所”と呼ばれる人たちは、会議や打合わせに呼ばれるだけでも「アイデア費」と「交通費実費」を請求します。筆者が知るWebディレクターには、「仕事が発生するかも」という相談の名目で第1回打合わせから、「1時間3万5千円」と言う人がいます。そのため、その人との会議はダラダラ話もなくとても効率的。
特にフリーランスは仕事になるかどうかわからない呼び出しに交通費を払い、アイデア提供することほどバカらしいことはないと言ってよいでしょう。
話がそれましたが「タダ働き」と言う言葉が頭をよぎると損をしている感覚になり、「ストレス」が生まれます。それを避けるべく、行う作業すべてに予算をつけることは重要です。
「すぐに候補制作に移らせていただきます。方向性や内容の精査、調査として企画提案費、作成費として別途費用がかかりますので、先にこの分の見積書をお送り致します」と丁寧に伝えます。
「ちゃちゃっと作るだけでいいんだけど…」なんて言う言葉に惑わされてはいけません。
制作は、Webディレクターのあなたではなく「システムチームの方々」。自分がカッコつけ、ちょっとクライアントにいい顔をしたことにより、彼らが「タダ働き」になることを肝に銘じましょう。
企画提案費などは、あらかじめ社内で金額を設定しておくと間違いありません。「当社規定なので」で押し切りましょう。
■「仕様追加の要求」などはどう対処するか?
また、見積もり確定後に仕様追加の場合も、別途費用を請求すべきところ。しかし「納期も予算も現状のままで」というモンスタークライアントも多いです。本来なら上述の、「断わる案件」です。
その段階で撤退、そこまでの費用を請求する方法もあります。これも80%納品なら幾らと規定を決めておくといいでしょう。
とは言っても、ひとたび進めた業務の打ち切りはなかなか簡単にはいきません。その場合は「やるしかない」ことになりますが、やるのはこの「1回のみ」に。以降は、クライアントが後から追加したくなりそうな仕様を想定し事前確認、追加仕様がない完璧な見積書を作ることです。そして、見積書には保険として「追加仕様が出た場合、別途費用がかかります」と明記、契約書の取り交わしにもこの一文を必ず入れることです。
クライアントからの返事が遅く作業が遅延、それで納期に間に合わないケースも「あるある」です。その予防に有効なのが「進行管理費」予算。あらかじめ工期を決定させたら(若干の余裕を持たせることは必要)、見積書や契約書に「工期を超えた場合、別途日割りの進行管理費が必要」と明記しておくのです。
作業者をないがしろにしている人ほど、こちらからの質問メールにも返信をしてきませんが、「工期が遅れると、進行管理費が発生しますが大丈夫でしょうか…」という下手に出て連絡をすると、費用をかけたくないクライアントは、すぐに連絡してくるという具合になります。
■まとめ
低予算で要求が高いモンスタークライアントは、初動とコミュニケーションが最も重要。まず、要望を先回りし漏れがないか確認、確実な見積書を作ることです。それに、思いつきで仕様変更を依頼してくることも少なくありません。本当にそれが必要かを探るためにも、信頼関係の構築も大切なのです。
同時に、システムチームとの信頼関係も忘れてはいけません。Webディレクターは、常に「みんなに仕事をしていただいている」という気持ちを持ち続ける必要があるのです。