【恐るべし台湾デザイン】卒業制作の公募展『放視大賞』

現代はネットを使えば海外の音楽、ゲーム、映画の情報などはカンタンに手に入ります。しかし、日本の若いデザイナーの人たちは海外のデザイン事情をチェックしない傾向にあると思えます。アジア地域においては日本のデザインが抜きん出て一番だと信じている人も多いのではないでしょうか。そんな人たちはアジアのデザイン事情を知ると驚くと思います。今回は、台湾のデザイン事情の一端をご紹介しようと思います。デザインの作り手ばかりでなく、クリエイティブ業界に関わる人に幅広く参考になると思いますので、ぜひご覧ください。

 

台湾の印象

台湾人は、歴史的背景もありとても親日的で、台湾から日本への観光客は年々増加しています。日本から近いので観光旅行で訪ねた人も多いことでしょう。文化的な交流イベントも増えてきているようです。
しかし、まだまだ現代台湾のデザインに触れる人は少ない感じがします。

観光旅行では、九份、国立故宮博物館、夜市などを訪れる人が多いようです。
そう言った観光スポットは、言ってみれば日本に来て京都、奈良の寺院、東京でも浅草や築地市場を訪ねるようなイメージではないしょうか。そうなると、日本や江戸の伝統的な品々が目に留まり、現代的な日本デザインを意識できないかもしれません。
同様に、台北101あたりを訪れた人は、逆に、「あれっ?台湾ぽくない」と感じてしまったと言う声も聞いたことがあります。

 

台湾のデザイン

さて、あくまで筆者の私見ですが、日本周辺の国々で商業デザインの印象では、台湾と韓国は日本と肩を並べる部分があると思います。意外に思う人も多いことでしょう。台湾の繁華街の看板などは、いかにもあか抜けない物が立ち並んでいます。確かに10年前であればその印象通りだったかもしれません。
しかし、現在の台湾は、国が「デザイン」を成長産業の1つとして掲げています。台湾デザイナーに聞いてもここ数年のデザインレベルの向上が激しいようです。

・デザイン学校の卒業制作
そんな台湾には多くのデザイン系大学、専門学校が多くあります。人口の割に多いような印象です。
それらの学校が応募する卒業制作の公募展を紹介しようと思います。代表的なものは2つあり、台北、高雄でそれぞれ5月頃に行われています。
台湾はアメリカなどと同様に6月頃が卒業シーズンですので、その前の卒業制作が完成した時期になります。

 

高雄の放視大賞

今回ご紹介する放視大賞は、台湾の経済産業省にあたる組織が主催する一大イベントです。
学生の卒業制作だけでなく、アジアのアーティスト、デザイナーを招待して若手の文化交流と言った意図も感じられます。ただの展示会ではなくデザインを若者文化に定着させる楽しい企画になっています。
https://www.facebook.com/visiongetwild/?ref=ts&fref=ts

以下、写真を中心にご紹介します。

 

会場は高雄の高雄港沿いの開発地域にある高雄展覧館。日本のビッグサイトのような会場です。
この建物の外観、内観を見ても建築デザインのレベルの高さがうかがえます。

 

搬入から設置まで大掛かりに行われています。ブースの制作も専門の業者を利用する学校もあるようですし、学生たちの工夫と手作りで行う学校もあります。
展示はあくまで最終形で、審査は事前の書類での応募時点から始まっています。

 

開会式、オープニングパーテイには政府関係者、有名企業やプロダクションの代表、人気クリエイターも参加して大盛況。パーテイで生バンドの演奏がありましたが、「君の名は。」の前前前世や、「逃げ恥」の恋ダンスを取り上げるなど日本文化への傾倒も感じられました。

日本の神宮外苑で行われていた東京デザインウィークの卒業制作版と言った印象です。
日本にもデザイン系の卒業制作公募展はありますが、このように大掛かりでショーアップされたものは全くないので、デザイン教育関係にも携わっている筆者としては羨ましい限りです。

 

海外からの招待ゲストも多く参加しています。

上から、今年のビジュアルイメージを製作した韓国アーティストのSakiroo Choi氏、ポップでアイロニカルな作風で知られる彼は昨年も作品展示とセミナーで参加していました。
http://sakiroo.com/

ロシアからの参加のAlexey Andreyev氏はiPhoneを使ったAR作品を持って参加。
彼自身はリアルな絵画部分を担当してARの技術や仕組みのアイディアは、それぞれインターネットで知り合ったヨーロッパの人間と組んでいるとのこと。
http://alexandreev.com/

日本からもフォントデザイナーの片岡朗氏がトークショーで参加。
彼は2000年に丸明フォントで日本のデザイン界に衝撃を与えましたが、今回の訪問で台湾でもグラフィックデザイナーへの知名度が高く好評でした。
http://www.moji-sekkei.jp/font.html

 

日本と同じようにゲームはたいへん人気があります。放視大賞には企業が新しい才能を発掘しようと言う意図もあるので、ゲームメーカーとコラボして大型の機材、テクノロジーをバックアップしてもらっている作品も見受けられます。

 

他にもグラフィック作品やチーム制作による「こと作り」の作品もあり、アイディア、仕上げのクオリティともに日本の卒業制作と肩を並べるものです。
日本からの招待作品は、データ送付の形をとっている都合上でグラフィックやイラストの作品が多くなっていました。

 

セミナー、講演も数多く開催されていますが、その会場は学生を中心に多くの参加者でにぎわっています。筆者も昨年、今年と講演を行いましたが、学生の反応が日本より良いように感じました。
日本にももちろん熱心で貪欲な学生はいますが、ここ数年、平均的に学生の熱量が下がっているように感じています。それに比べると、台湾はここ10年で国自体のデザイン力が急激に伸びていることもあり、デザインで何かをしてやろうと言う意識が強い印象でした。

 

台湾のデザインの現状を少しでも感じ取ってもらえれば幸いです。
また機会があれば学生以外のデザインなども紹介したいと思います。

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