海外クリエイティブ事情~フランス・ナントに根付く屋外広告と印象に残りやすいメッセージの伝え方事例

ヨーロッパの他国同様、フランスは都市景観に関して厳しい規制が多く、屋外広告には一定の制限が設けられています。一方で、屋外広告の分野で世界的シェアを誇る広告代理店「JCDecaux」を抱える国でもあり、OOH(Out of Home Media)が人々の生活の一部として根付いている面もあります。今回はフランス北西部の文化都市ナントから、屋外広告の設置例、またその巧みなメッセージの伝え方を紹介します。

 

【フランス・ナントのOOH事例】屋外広告のさまざまな形態

フランスのOOHメディアを語る上で欠かせないのが、19世紀にパリを中心に発展してきた円柱型の広告塔「コロン・モリスColonnes Morris」です。映画や芸術・文化イベントの告知専用に使用され、ナントでは商業施設が多い中心街でよく見かけます。


(ナントで見られるコロン・モリス。伝統的な装飾を施したフォルムが石畳のある街角にもしっくり馴染む)

写真のようにポップでカラフルなポスターが入っていても、エレガントな形態のコロン・モリスが街角に上手く調和。実際に近くを通っても街並みに馴染んで違和感がなく、告知内容のみをさっと確認できるため、広告本来の目的を果たしていると言えます。


(アートイベントの宣伝用フラッグ。歴史的建造物のある地域の手前まで設置)

街灯用のフラッグも、度々登場するOOHメディアです。
写真は鉄道の駅から美術館へと続く道に設置されたアートイベントの宣伝用フラッグ。ここから先は大聖堂などがある歴史的保護地区となるため、規制によって広告を出すことはできません。


(上の写真の通りを反対側から見た風景。反対側にはカフェやホテルなど商業施設が並ぶ)

協賛スポンサーのロゴも入ったフラッグは、同じ通り沿いに複数枚が連続して取り付けられるので、自然と道行く人の目に留まりやすくなります。


(バス停には両端の表と裏、計4面の広告スペースがある)

街中で一番よく見かけるメディアは、市内を網羅するトラムやバスなどの交通機関の停留所に設けられた広告スペースです。こちらも歴史的建造物保護地域においては規制があり、規制エリアでは広告スペースを除いた屋根と背面のガラスのみの簡素なものが設置されています。


(信号待ちの間に目が停まるよう設置された大型のパネル広告)

市内を離れて郊外へ近づくにつれ、交差点付近に大型のパネル広告を目にする機会が増えます。自家用車を利用する消費者をターゲットにした、リゾート地やテーマパークなどの広告が多く見られるようになります。

 

「造語」や「言葉遊び」でメッセージを前面に打ち出す

よく見かけるフランスの広告の傾向として、遊び心に溢れたコピーやテキストを前面に出してメッセージを伝える方法が挙げられます。
韻を踏んだ言葉遊びを好む国民性が、広告の世界にもしっかりと反映されているのです。


(環状交差点ラウンドアバウト周辺にも大型の電動パネル広告が取り付けられている)

言葉遊びが見られるキャッチコピーの一例。
「SUWAOUH」とは「SUV(スポーツ用多目的車)」と、感嘆の声「WAOUH!(ワオ!)」を掛け合わせた造語です。一瞬「この言葉は何?」と見る側に疑問を抱かせ、結果的に注意へと導くコピー文の制作は、フランスの広告業界が得意とする定番手段と言ってもよいでしょう。


(上の写真と同じ電動パネルのスクリーンが入れ替わり、他の広告に)

同じパネルのもうひとつの広告のコピー文にも言葉遊びが見られます。
店名の「BRICO DEPÔTブリコデポ」(Brico=DIYとDépôt=ここでは「店」の意味。つまり「DIYの店」)にかけ、Dépôtデポという言葉が指す「置く」を強調したキャッチコピーで、新製品の販売開始日を伝えています。
また、写真のように値段や割引率などの数字を前面に出すのも、フランスの広告でよく使われる手法です。

ビジュアルと見せ方で記憶に残るキャッチコピーに


(バス停の下り方面側に設置されたビールの広告)

次に、色違いのビジュアルを同時に提示し、キャッチコピーの語呂のよさを際立たせている例を紹介します。
写真はバスの停留所で見られた広告です。


(上り方面側には、同じ構図でキャッチコピーも同じ色違いの広告が)

コピー文は直訳すると「おもてなし感覚」という極めてシンプルな文章。それをバス停の左右に色違いで掲示することで、イメージと併せて響きのよい一文が人々の記憶に残りやすくなっています。


(左右対称に設置された2つのビジュアルを同時に見た図)

 

もうひとつの事例を紹介。写真は6年に及ぶ工事期間を終えて再オープンしたナント市立美術館のポスターで、下の写真の(Ré)ouvertureとは「再開」を意味する単語です。


(市立美術館の再オープンを伝えるビジュアル広告も市内で展開された)

オープン前後には「 (Re)découvrir 再発見」 「 (Re)voir 再会」などの「再(Re)」が含まれる他の言葉を使ったビジュアルも数パターン制作され、宣伝フラッグとなって大通りに登場。遠くから見ると連続して浮かび上がる「再(Re)」という文字が強調される形となり、美術館の「再開」を印象づけていました。

 

複数のOOHメディアを駆使したキャンペーン事例


(ナント市内のショッピングセンターに設置されたスマホ型のデジタル広告板)

最後に、複数のOOHメディアを駆使した食のイベントの広報事例です。


(同じショッピングセンター内に設置された吊り下げバナー)

パスタが人気の食品メーカーが開催する、トップシェフによる1日限定イベント「DINER BLEU」
このイベントの申し込みには、同社のパスタを購入して商品のバーコードを送らなければなりません。限られた期間でキャンペーンを広く認知してもらうため、目立つ場所に複数のメディアで宣伝を行っていました。


(市内を走る、車体ラッピングが施されたトラム)

こうして複数の場所で目にすることで「あの青色がテーマカラーのパスタメーカーが DINER BLEUというキャンペーンを行っているらしい」ことが、容易に想像できるようになっていた一例です。

 

まとめ:風物詩さえも反映させる生活に根ざしたOOH


(秋が深まる頃になると、香水を筆頭とするクリスマスプレゼント商戦が始動します)

都市景観の厳しい規制を乗り越え、ナントのOOHは日常に違和感なく浸透しています。華やかな高級食材の広告を目にする機会が増えると、クリスマスが近づいていることを実感するなど、季節の風物詩とさえなり得ている感も。

屋外広告が生活の一部となっているナントから、メッセージが伝わりやすいOOHの事例をお届けしました。

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