【ちょっと一息。趣味の教室】恋愛映画Part2/2000年以降の秀作~クリエイターなら観ておきたい映画

クリエイターにオススメの恋愛映画5本、いよいよ2000年以降のクリエイター向け恋愛映画をご紹介します。恋愛映画と言えば、昨年は「ララランド」がアカデミー賞を6部門獲得して大きな話題となりました。筆者も大好きな作品で、映画史の上でもエポックメイキングな作品と感じました。それに対抗するわけではありませんが、今回は大きな話題とはならずに一部のファンのみを獲得した映画をご紹介します。多くの分野のデザイナー、ディレクター、アーティストのクリエイティブマインドに沁みる作品を選びました。ストーリー、人物キャラクター、大道具小道具、映像美、編集リズム、音楽など刺激に満ち溢れた作品ばかりです。
Part1/2000年以前の作品はコチラ


 

ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)

(監督:リチャード・リンクレイター 出演:イーサン・ホーク 1995年アメリカ)
2000年以降の作品と言いながら、最初から2000年以前の作品です。。実はこの作品は3部作となっていて、主人公2人のその後を、それぞれ現実の時間の流れに合わせて9年後「ビフォア・サンセット」(2004年)、18年後「ビフォア・ミッドナイト」(2013年)と同じ出演者で製作しています。そこで、1作目こそ2000年以前ですが、今回は「2000年以降枠」でご紹介をしたいと思います。

この作品はベルリン国際映画祭の監督賞を受賞していますが、監督の日本初公開作だったせいか大きな前宣伝もなく、公開当時は大きな話題にもならず比較的静かに終わりました。その後、ビデオレンタル(時代を感じます、、)で少しづつ人気が出ます。

特に大きな事件が起きるわけではなく、偶然出会った2人(イーサン・ホーク、ジュリー・デルピー)の会話をメインに話は進みます。そう聞くと淡々と静かで地味な映画を想像するかもしれませんが、決してそんなことはありません。朝まで夜通しぶらぶらと過ごすウィーンの街は繁華街だけでなく墓場まで絵になる風景です。その中で文化的IQが高い様子の2人の会話が飽きさせることなく観る者を楽しませます。

皆さんもおそらく夜通し友達と話し仕込んだことがあると思います。懐かしい関係だと会わない空白の時間を埋めるべく、多岐にわたる話題であっという間に時間が経ってしまったと感じることでしょう。そんな場面に同席しているような映画です。
人の話を聞くのが嫌いでない人はとても楽しめるはずです。

監督のリチャード・リンクレイターは、インディペンデント出身ですが、ハリウッド型の娯楽映画も巧みにこなしつつ、一方で実験的な映画も作り続けています。その両方が見事に結実したのが「6才のボクが、大人になるまで。」。12年の間、毎年数週間ずつ撮影をして主人公の子供の成長を追っています。
 

ジョゼと虎と魚たち

(監督:犬童一心 出演:妻夫木聡 2003年日本)
原作は、後に文化勲章を受ける田辺聖子が1985年に発表した同名の小説です。筆者はあいにく原作を読んでおらず、映画を観てそのストーリーが良い意味で非常に軽かったので気になり調べました。映画から遡ること18年前の原作であることにも驚きましたが、昭和3年生まれの大阪のおばちゃん田辺聖子が57歳で書いたことになお驚きました。それぐらい「今」を感じさせるストーリーです。

足が不自由で歩くことができない女の子ジョゼは、お婆ちゃんが周囲にその存在を隠しほとんど家の中で本と生活しています。そして、一方でいかにも現代的な大学生の恒夫は、いつも女の子のことを考えているようなお軽いキャラクター。
暮らしぶりも性格も、そして身体状況も全く違う2人。ひょんなことから出会った2人はゆっくりと心の距離を詰めて行きます。

監督の犬童一心は元々CM作りを仕事として、その合間に自主映画をコツコツと作っていた人です。
インタビューでマンガ家・大島弓子のファンと語っていたことがありますが、まさにこの映画のタッチは大島マンガに通じるものがあります。深刻になり過ぎずあくまで軽いタッチで、しかしテーマは真剣であると言う感じです。

日本映画は良くも悪くも観念的で、時としてストーリーテリングのジャマになるくらいの登場人物の心情表現に陥ります。
そんな落とし穴を軽々と乗り越える感じは、田辺聖子の原作、犬童一心の演出の力によるところは大きいと思います。そして、妻夫木聡と池脇千鶴の見事にハマった演技と、もちろん脇役たちの絶妙な味も忘れてはいけません。さらにくるりによる音楽も一役買っています。
映画は、こう言った化学反応が上手くいくと予想以上の仕上がりになります。
 

エターナル・サンシャイン

(監督:ミシェル・ゴンドリー 出演:ジム・キャリー 2004年アメリカ)
賛否が分かれる作品のようです。賛成派の立場から書かせてもらうと、恋愛映画の名作です。トリッキーなストーリーでもあるのですが、この設定でなくては成立しないラブストーリーです。とんでも無いことを考えるものです。

映画は主人公の男(ジム・キャリー)が会社をサボって海へ向かうシーンから始まります。そして、海辺で典型的なボーイミーツガール的に女(ケイト・ウィンスレット)に出会います。戸惑いながらも2人はすっかり意気投合して、幸せな物語の始まりの予感。と、思いきや暗転した画面の後には暗い男の姿。いったい何が起きたのか・・・。

ストーリー全体で謎解きのような部分もあるのですが、誰にでもありそうな思い出シーンを巡りながら、ついつい恋愛について考えさせられてしまう仕組みになっています。過去に失恋経験のある人は涙なしに見られないかもしれませんね。

監督のミシェル・ゴンドリーはミュージックビデオ出身で、ビョーク、ケミカル・ブラザーズ、レディオヘッド、ダフト・パンクなど、おそらく皆さんも見たことのある作品を作っています。その映像的なテクニックも高く評価されていますが、常にユニークな着想で独自の世界観を築いています。
この映画でともにアカデミー脚本賞を受賞したチャーリー・カウフマンは、スパイク・ジョーンズ監督の「マルコヴィッチの穴」を手がけた脚本家ですが「脳内ニューヨーク」と言うやはりちょっと変わった作品を監督しています。
 

ルビー・スパークス

(監督:ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス 出演:ゾーイ・カザン 2012年アメリカ)
不思議な空気感の映画です。
まず、主人公ルビーのファッション、小物がとても素敵です。ポップでカラフル。画面全体に大きな影響を与えています。ストーリーテリングのテンポ、会話も軽やかで、映画全体がカラフルでカジュアルな魅力に満ちています。

ストーリーも童話のように荒唐無稽なものです。
若くして天才小説家ともてはやされながらスランプに陥っているカルヴィン。彼が精神科医の勧めでやっと書き始めた小説のヒロイン「ルビー・スパークス」が性格もそのままに現実世界に登場します。ウキウキするような設定ですね。ただし話が進むと、そこで語られる男女の恋愛観は決してふざけたものではありません。むしろリアリティを持って胸に迫ります。

監督をしたジョナサン・デイトンとヴァレリー・ファリスは夫婦でミュージックビデオやCMなどを作っている映像作家ペアで、映画監督デビューの「リトル・ミス・サンシャイン」で高く評価されました。
また、主役カップルを演じるポール・ダノ&ゾーイ・カザンは私生活でもカップルだそうです。ゾーイ・カザンは出演だけでなく、脚本、製作総指揮も担当しています。ちなみに、カザンの名前からピンと来た往年のファンもいるかもしれませんが、そうです、彼女は「欲望という名の電車」などで知られる名監督エリア・カザンのお孫さんです。
 

her/世界でひとつの彼女

(監督:スパイク・ジョーンズ 出演:ホアキン・フェニックス 2013年アメリカ)
人工知能型のOSと恋に落ちる男の話、その突飛な設定で多少話題にはなったようですが、喰わず嫌いで観なかった人も多いのではないでしょうか。しかし、決してコンピューターオタクや変わり者のための映画ではありません。

設定は近い未来。人の代わりに手紙を考えて書く代筆屋のセオドアは、別れた妻が忘れられずに沈んだ生活を送っています。そんな時、新しい人工知能型のOSをインストールした彼は、OSが発する生き生きとした女性の声に驚くと同時に、そのウィットに富んだ対応から徐々に親近感を覚えていきます。そして・・・
遠距離恋愛でもしているかのようにごく自然に会話だけで恋に落ちていきます。特別な人間だけがそうなるとは思わせない巧みな演出です。

映画全体は監督スパイク・ジョーンズが得意とする軽妙なトーンで進んでいきますが、そこで問われる人のコミュニケーションや恋愛観はとても深い問題を含んでいます。SFの世界でコンピューターと自身のアイデンティティの問題は、鉄腕アトムから「攻殻機動隊」の草薙隊長まで常に語られてきました。今回は、恋愛相手のアイデンティティです。2016年日本公開のSFミステリー映画「エクス・マキナ」(アレックス・ガーランド監督)では、人工ボディを持つAIを愛してしまう男が出て来ます。

実社会でもAIの発達に伴って人間のコミュニケーションは変容しています。介護役、ペットとしての対象は現段階でも許容されています。
今後、どこまでが許容範囲となって行くのでしょうか?

 

以上で、前後編でお届けした、クリエイターに観て欲しい恋愛映画10本の紹介を終わります。2000年以降の今回は特に変わった映画が多いと感じるかもしれません。しかし観てみるとどれもすっと入って来るリアリティがあります。ぜひ、1本でもご覧いただけたら幸いです。

今後の連載予定
次回の【ちょっと一息。趣味の教室】は、
『クリエイターなら読んでおきたい本』の予定です。

<過去の『クリエイターなら観ておきたい映画』シリーズ>
第1回 夏の名作ホラー映画
第2回 感性を刺激する映像体験
第3回 ほっこり、ジーン、ほんわか。恋愛映画Part1/2000年以前の秀作
第4回 恋愛映画Part2/2000年以降の秀作

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