【いろいろな色】映画や音楽から紐解く各年代における色の移り変わり

「色」にまつわるアレコレを紹介していく当シリーズ。前回は「金より高価な「青」に、ミイラ由来の「茶」。「色」にまつわる豆知識や不思議な話」というタイトルで、色の豆知識やちょっとしたうんちくについてご紹介させていただきました。今回のテーマは、各年代(1950年代〜70年代の終わりまで)の流行色の移り変わりについてです。筆者の得意分野である音楽や映画と絡めてお話しいたします。

 

年代によって流行色にはこんな違いが!?

過去を振り返ると、さまざまな流行が台頭し、注目される色もそれぞれで違っていました。
では、ちょっとひと昔の年代(1950年代~70年代の終わりまで)では、いったいどんな色が流行色となっていたのでしょうか。

とは言え、色の話だけに終始するのではあまり面白くありませんので、筆者の専門である音楽や映画に絡めて、サブカルチャー的な側面からも各年代の「色」を見ていこうと思います。そのため、少々斜めの視点からもご紹介することとなりますが、予めご了承くださいませ。

なお、参考として色の見本を画像で付けますが、お使いの環境によって微妙に異なるので、厳密に紹介する色を表現していないこともご理解ください。

 

1950年代

1950年代は太平洋戦争が終結し、世界のなかでもアメリカ文化がとりわけ大きな影響を持っていた時代です。ウィリアム・ワイラー監督の『ローマの休日』やビリー・ワイルダー監督の『麗しのサブリナ』がヒットしています。

娯楽のなかでも映画が絶大な影響を持っていたこの時代、服装や流行色も映画由来のものが多く、スタンダールの同名小説を映画化した『赤と黒』により赤と黒が、『初恋物語』で使われたドレスの色であるモーニングスターブルーが流行しました。


※左から黒、赤、モーニングスターブルー

さて、娯楽文化の中心地であった米国では、1950年にチェス・レコード(※1)、1952年にはサン・レコード(※2)など、ブルースやロックン・ロールに多大なる影響を与えたレーベルが開設され、若者文化に大きな影響を与えました。また、ビート・ジェネレーション(※3)が後のカウンターカルチャーに先鞭をつけ、文学的にも盛り上がり始めます。

特にレコード・アルバムのアートワークは素晴らしいものが多く、ジャズの名門、ブルーノート・レコード(※4)では、グラフィックデザイナーのリード・マイルズが数々の名盤のデザインを手がけています。

そのリード・マイルズが50年代に手掛けたもののなかでも特に美しいのが、キャノンボール・アダレイが1958年に発表した『サムシン・エルス(Somethin’ Else)』です。ロゴタイプのバランス、色使い、カーニング、余白の使い方、すべてにおいて完璧であり、デザイナーならば一度は構造を勉強しておいて損はないでしょう。

上の画像は『サムシン・エルス(Somethin’ Else)』のジャケットより、簡単に色を抽出したものとなります。
抑えた発色で若干のくすみがある、かと言って決して暗くはならない色のセレクトは、現在でも充分通用する色使いです。

※1チェス・レコード
米国のレコード・レーベル。レナードとフィルのチェス兄弟がシカゴに設立した。
マディ・ウォーターズ、ハウリン・ウルフ、チャック・ベリー、エタ・ジェイムズなど、多くの名盤を作成している。2008年の映画『キャデラック・レコード 音楽でアメリカを変えた人々の物語』が、当時を巧く再現しているのでおすすめ。

※2サン・レコード
アメリカ合衆国テネシー州メンフィスにてサム・フィリップスが設立したインディペンデント系レコード・レーベル。
エルヴィス・プレスリー、ジョニー・キャッシュ、ロイ・オービソンなど、著名アーティストを多数輩出している。

※3ビート・ジェネレーション
ウィリアム・バロウズ、ジャック・ケルアック、アレン・ギンズバーグなどに代表されるアメリカ合衆国の文学界に出現したグループ、またはその活動の総称のこと。

※4ブルーノート・レコード
ドイツ出身のアルフレッド・ライオンによって、1939年にニューヨークで創設された伝説的なレコード・レーベル。

 

1960年代

1960年代は、ベトナム戦争、東京オリンピック、高度経済成長、宇宙開発競争などなど、様々なキーワードが散りばめられており、一筋縄ではいかない様相を呈しています。

50年代〜60年代にかけて、戦勝国は好景気に沸き、若者が自由に使えるお金を手に入れることにより、音楽や映画、服飾品などが大量に消費されることとなります。そのお陰でクリエイティブ文化が醸成され、多くの流行が生まれていきます。

世間で言われる流行色については、ヒッピー文化(※5)を代表するサイケデリック・カラーや、アンドレ・クレージュのトリコロールなど、ファッション面からの引用が強い印象ですね。下記画像は、後者のトリコロールカラーです。

60年代の色に関しては、あれこれ書いて説明するよりも、映画を引き合いに出してしまった方が早いでしょう。
1967年に製作された映画『欲望(原題:Blow-up)』や、1966年製作の『ひなぎく(原題(英題):Daisies)』などをご覧になられると、時代感も含めイメージが湧きやすいかと思います。どちらも名作ですし、デザイン関連の仕事をするならばマストな作品です。機会があればぜひご視聴を。

せっかくですので、試しに『欲望』のスクリーンショットから色を抽出して並べてみましょう。

劇中のワンシーンからのスクリーンショットですので実物はもう少し発色が良くなるでしょうが、概ねこのような色合いです。60年代を舞台にした映画で、画像のような単色のワンピースやスーツを着ている女性に見覚えがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

また、最近では60年代に米国とソ連の間で行われた宇宙開発競争の影で活躍した黒人女性計算手にスポットを当てた『ドリーム(原題:Hidden Figures)』という作品もありました。こちらもストーリーは言わずもがな、ファッションや色彩感覚が素晴らしく、当時の「色」を描き出している傑作です。こちらも機会があればぜひご覧ください。

※5ヒッピー文化
1960年代後半のアメリカの若者の間で生まれたムーブメント。様々な文化・芸術・思想を内包し、世界中に形を変えつつ広まった。

 

1970年代

1970年代は、オイルショックなどに代表される経済の低迷により、不況が続いた時代でした。
サイケデリックムーブメントも一段落し、ナチュラルカラーやアースカラーなど、以前よりは落ち着いたトーンの色が流行します。


※アースカラー

また、三宅一生やケンゾーなど、日本人デザイナーの評価が高まったのもこの頃です。パリから帰国した三宅一生はちょうど70年に「三宅デザイン事務所」を設立し、3年後にはパリコレデビューを飾ることとなります。

メインストリームと申しましょうか、大まかな流れ(つまり「70年代・流行色」などで検索して出てくるような情報)の脇にも、重要なキーワードが隠れています。先程「不況」というワードを出しましたが、イギリスでは不況の最中、現状に不満を持った若者たちが様々なムーブメントを起こしています。

その確固たるものは、1970年代後半に勃興するロンドン初期パンクムーブメントでしょう。セックス・ピストルズ、ダムド、ザ・クラッシュなどの出現は、1970年代の流行色とは真逆の方向性をひた走り、ジェイミー・リード(※6)やピーター・サヴィル(※7)らのグラフィックデザインは、流行とは一線を画しています。

ジェイミー・リードのアートワークから、色を抽出してみましょう。

一気にド派手になりました。ショッキングピンクとイエローはパンクにおける二大カラーと言っても過言ではありません。

流行色と一口に言っても、シーン毎に色が異なるのがわかりますね。
さて、60年代における映画と同様に、パンク関連についてもデザインの仕事をするならば、同年代におけるヒプノシス(※8)なども含め、マストな知識です。概観で構いませんので、目を通しておけば、きっとアイデアの種となることでしょう。

※6ジェイミー・リード
セックス・ピストルズのアートワークを担当したグラフィックデザイナー。ピストルズの仕掛け人であるマルコム・マクラレンとはアートスクール時代の同級生。

※7ピーター・サヴィル
1970年代後半よりファクトリー・レコードの専属デザイナーとしてジョイ・ディヴィジョン、ニュー・オーダー、ハッピーマンデーズなど、数多くのジャケットデザインを手がけた。

※8ヒプノシス
1968年に結成。ストーム・ソーガソン、オーブリー・パウエル、ピーター・クリストファーソンからなるデザイングループのこと。1970年代を中心にピンク・フロイド、レッド・ツェッペリンなどのアートワークを担当し、グラフィックデザイン界を牽引した。

 

おわりに

駆け足に1950年代〜70年代の流行色やサブカルチャーをご紹介して参りましたが、これらはほんの一部です。ですので、あくまで本コラムは知識を得るための目次くらいの心持ちで捉えていただけると幸いです。

そもそも、流行色と一言で表現しましても、いわゆる巷で言われている広義での「流行色」から、その時代の映画における流行色、音楽における流行色、グラフィックデザインにおける流行色はもとより、そこから更に細分化した流行色というものがあります。この点は非常に重層的であり、深掘りしてみると意外な発見や繋がりがあるので、機会があればぜひ調べてみてくださいね。

 

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